No.2 お茶漬けの味

14/24
205人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
伊織が帰った後は、少しだけ寂しくなる。 いろんな後悔と、嫉妬と、やり切れない思い。 「至さん」 裕人の声に俺はハッとして我にかえる。 「あ、何?」 「いえ、話が途中だったから。明日の休みの話の」 ああ、そうだった。 「俺は休みだけど、お前は休みがないって話な。んで?結局それがどうした?」 裕人に尋ねると、裕人は言いにくそうな顔になった。 「どうしたよ。言えよ」 俺は優しく話しかけた。 「………………なんかタイミング変になって、恥ずかしいです」 いじけた風に裕人は言う。 なんだよ。恥ずかしいって意味が分からねぇ。 「言えないなら後片付けして帰るべ」 俺はそう言って調理場を片付ける。  「寂しいと思って!」 裕人が突然大声で言うから俺は驚いた。 「店の定休日は、至さんと会えなくて寂しいです!」  あらら。 真っ赤になって告白とか、俺もかなり懐かれたな。 「寂しいなんて可愛い事言うじゃん」 俺は嬉しかった。慕われるって悪くない。 「さっき田嶋さんが言ってた、新しい男って?」 俺はギクッとした。  「あー、何言っちゃってんだろうねー。ジョーダンだよ、ジョーク」 誤魔化さなければと思った。 俺が伊織と付き合っていたのを知られたくなかった。 こいつに、性的なことでショックを与えたくなかった。 「そうっすかー。良かった」 裕人が安堵してる顔を見て俺はドキドキしてきた。 「田嶋さんに、俺が至さんを大事にしてるのがバレたのかと思った」 裕人の告白に俺の心臓はバクバク言い始めた。 「な、何?何が?お前が俺を大事?」  「はい。こうやって俺の息抜きを与えてくれるのは至さんだけです。俺、至さんのそばにいると落ち着くんです。本当は、ずっとそばにいたいけど、無理なのも分かってます。だから、定休日は余計に嫌いです」 あー、なんて可愛い事言うんだろうな。 俺より図体デカくなってきてるけど、心はピュアだな。 「バーカ。明後日にはまた会えんだろ。明日1日頑張れよ」 「はい!」 ったく。 こんな時は本当にズルいわ。 素直で可愛いって最強だろッ!
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!