さよならの合図

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さよならの合図

もう何も残っていない。 一欠片の嘘も、誤魔化したい気持ちも、背け続けていた本音も全て曝け出した。 貴方は黙っている。 黙ったまま立ち尽くしている。 反応はない。 呆れたのか、怒っているのか、凍り付いた表情からは何も見えなかった。 今度こそ終わり。 私と貴方は今日を持って本当に関係のない者同士。 もうすぐしたら、出て行くだろう。 私に背を向けて、ドアを開けて、二度とこの部屋を訪ねることはない。訪れない。永遠に。 と、思っていたのに。 どうして? 気付いたら私は貴方の腕に包まれていた。 温もりと震えが全身に駆け巡る。浸透していく。 ああ、まだ私はこんなにも貴方を愛している。 そんな資格もないのに、どうしようもない喜びと嬉しさと戸惑いを隠し切れなかった。 抱き締め返す私を許して欲しい。 離れたくないと、やっぱり嫌だと、駄々を捏ねる心を受け止めて欲しいと思っている。 「話してくれてありがとう。俺も正直に話すよ」 貴方はゆっくりと言葉を落とす。 慰めと愛しさの篭った手付きで、私の跳ね上がった肩をあやすように優しく撫でながら。 最初から俺が間違っていた。認める。本当にごめん。だけど、その間違いがあったからこそ俺は君と付き合えたし好きになれたんだと思っている。 酷い態度だったよね。最低だったよね。こんなクズは君に振られて当然だ。都合の良い相手として扱っておきながら、すり抜けた瞬間にいきなり愛を信じろなんて無理がある話だ。 でも誓って嘘じゃない。君に見られたあの時にはすでに俺は君を愛していたんだ。彼女とは別れるつもりだった。言い訳にしか聞こえないかもしれないが、あれは君を守る為にした事で、変な話し、君を想いながら必死で抱いただけにすぎないんだよ。 こんな暴露も最低の極みだ。もっと他にやりようはあったと思っている。そもそも、俺が君を選んだ時点で彼女とは別れるべきだったのに、悪者になりたくないという自分勝手さが招いた事態だ。 傷付けてごめん。勿論、この話を信じろなんて言わない。疑ってくれていい。この件について一生罵ってくれて構わない。だけど嘘じゃないんだ。 君は自分の本音を言わなかったことに罪悪感を持っているみたいだけど、俺の罪に比べたら何でもない。 確かに今、嫉妬している。 君を抱いた男は誰だと問い詰めたいし、殴ってやりたいと思っている。 けど、君をそこまで追い詰めたのは他でもない俺自身だから。痛いけど、苦しいけど、受けるべき罰を受けただけと思うことにする。 だからもうやめよう。素直になろうよ。お互いに。 卑怯な自分とはここで別れ、やり直そう。ね? 私はまた泣いた。泣いて泣いて泣き疲れて眠るまで、貴方をずっと離さなかった。
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