最果ての岬の館

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 蜥蜴人たちは死せる飛竜の臭いにか、――将又(はたまた)、生ける駆竜(くりゅう)の末裔たる北衛に引き寄せられるのか。 岬の(きわ)へと迫る濃く暗い森を抜けて、度たび、この館の近くへと姿を見せる。  森――、(おか)へと背を向け、海へと門扉を開くかの如く建てられてた館は『飛竜の死出の館』と見做されていた。 ――その、あまりにも不吉な名故だろう。 最寄りの村の者たちは言うまでもなく、館の持ち主たる駆竜の王の(すえ)御堂(みどう)の家の者でさえも、口に出すのをはばかった。 最果ての岬の館、またはただ、『岬の館』とだけ呼ばれていた。  北衛は、その『岬の館』の主にして、火夜がやって来るまでは唯一人の住人だった。 本来は側仕えであろう明純は、月の大半を御堂の本屋敷で過ごしている。 火夜が曲がりなりにも剣を振るえるようになってからは、さらにそれが明らかになった。 今では、館には月に数えるほどしか帰って来ない。  明純が居ようといまいと、北衛の暮らしぶりは何ら変わらなかった。 北衛の三度の食事や身の回りの細ごまとした世話は、森の側へと建てられた館の離れに住む老女が行なっていた。  しかし、北衛が「(ヒロ)」と親しげに呼ぶその老女は、相当の年寄りだった。 何かと覚束ないことばかりだったが、北衛が苛立ち声を荒げたことは一度たりとてない。  見るにみかねた火夜は事あるごとに老女を手伝い、北衛はそのつど、(あお)く澄んだ目を細めていた。
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