【Furioso】

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【Furioso】

「律!」 ゴミ山の様な室内の雰囲気に似合わない来訪者が、重たい扉を開いた。 倉庫の隅、埃に塗れた床に座る弟に、奏は手を差し伸べる。 その姿は、天使のようで悪魔だ。 律からしたら、最早、悪魔以外の何者にも見えないのだ。 「今日は御馳走だった。律も食べよう」 埃臭さが混じったデミグラスソースの匂いが、律の鼻を擽る。 そうして向けた視線の先には、綺麗に半分にされたハンバーグ。どう見ても、食べかけを残した物。 憎悪が膨れ上がり、ぎりぎりと歯が鳴る。ナイフのような金目の視線。だが、それに気付いても兄は優しい笑みで受け止めるだけ。それがまた、律を憤怒させる要因となっている事を奏は知らない。 「きのこが入ってて美味しかったんだ。ほら、」 故に、優しさは止まる事を知らずに降り注がれる。掴まれた腕に、一層沸き立った怒り。 「要らねぇよ!!」 律の怒声が、室内に充満する陰鬱な空気をより一層暗くさせた。 デミグラスソースが床一面に飛び散り、高級な皿は粉々に砕け散っている。その先で、壁に当たりぐしゃりと潰れたハンバーグ。それが落下した付近には、犬の餌の如く与えられた律の食事があった。 勿論、ハンバーグなんかではなくて、残飯を盛り付けただけの白米。 見慣れたようで、見ないフリを繰り返してきた現実。そして今日もまた、奏は繰り返す。 自分達の決定的な違いを、布を被せるように覆い、包み込む。 「律、外で遊ばないか? 今日は父上達の帰りが遅いみたいだ」 「出て行け」 「ボール遊びがしたいんだ。ひとりじゃ出来ない」 「出て行けっ……!」 「遊びたいんだよ。たくさん、律と遊びたいんだ」 「うるせぇんだよ!!」 咄嗟に割れた皿の破片を拾い、奏の顔面目掛けて投げつける。自分と同じ容姿をした兄が、心底嫌いだ。憎い。憎たらしい。 握った拳から溢れ出た血。痛みを感じたくなくて、次は髪を鷲掴みにし、その慈愛に満ちた顔をぶん殴る。 そうされても尚、立ち上がって、優しい笑みで手を差し出して来る兄がどうしようもない程に腹立たしくて、鬱陶しくて、許せなくて、歯止めが効かない。 “抵抗を知らない。コイツはただの弱虫だ。”と蔑む。そうする事で保っていた自尊心。 諦めて、自分の前から去る兄の背に向かい、暴言を吐く。 「弱虫野郎が!」なんて、死体蹴りを愉しむかのように。 *********
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