4丁目の少女

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 肩を揺する温かい手に少女は起こされた。目の前にはスーツの青年がいることだけわかった。それだけ確認すると、あたり一面の水たまりに反射する光から逃げるように少女は目を閉じた。 「おはよう」 今度は少しずつ目を慣らし、青年の差し出す少女の傘を受け取った。 「ありがとう。助かったよ。ごめんね、待たせちゃって」 「大丈夫です。お母さんの言いつけなので」 そう言いながらふと横を見ると、もう猫はいなかった。 「猫は?」 「……ねこ? 僕がきた時にはいなかったけど」 あたりを見回しても、猫はいなかった。 「そっか。私も帰んなきゃ」 スマホを取り出しメッセージアプリを開く。お母さんから「まだ?」「迎えに行こうか?」とメッセージが来ていた。「今から帰るよ」そう送ると、傘を片手に少女は立ち上がった。 「じゃあね。お兄さん」 「うん、じゃあね。ありがとう」 いつの間にかジャケットを脱いだお兄さんは出会った時とは違う柔らかい笑顔を見せた。少女は水たまりの煌めく帰り道を、水の滴る花柄の透明な傘をさして歩いていった。
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