送らなかった手紙

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 冬のある日。  私は真っ白な便箋を前に頬杖を突き、唇を軽く噛む。  書くことは、もう決まっている。  でも、この手紙を書くのに、かなりの決意を要さねばならなかった。  この一年間、私が彼に贈ったものには、恋人としての想いを詰め込んだ。  いずれの品も、仕事や内容のわからない用事の為に、まったく会えずにいたあの人を待っている間に作ったり、選んできた。  でも、彼への誕生日プレゼントを贈った後で、気付いてしまったことがある。  それをこの手紙にしたためよう。  ――あのね、貴方。    私、待っていたの。ずっと待っていた。貴方が『会いにおいで』と一言言ってくれるのを。    でも、先日、貴方への贈り物をした後で、気付いてしまったの。    私、貴方を待つのに疲れたんだ、って。    上京して、すっかり変わってしまった貴方を受け入れることも、再び貴方が私の方を向いてくれるよう努力して、貴方を待つ余裕もないくらいに。    あのね、貴方。    私が今まで贈ったものには、貴方への想いを籠めていたの。    すべてを貴方に贈りきってしまった今は、私の手元に貴方への想いはすっかりなくなってしまったわ。    ねえ、お別れしましょう、私達。    私のような、勝手に物を送りつけて、それは貴方を想ってやったのよ、なんて、恩着せがましい身勝手な女に、無理に付き合う義理なんて貴方にはないわ。    貴方もそう思っていたから、私をそちらに呼び寄せなかったのでしょう。    さようなら、貴方。    私が贈ったものはすべて、きれいさっぱり捨ててください。  この手紙を彼が読むことはない。  だって、私はこの手紙を自分のけじめの為に書いたのであって、彼に送るつもりはないのだから。  彼に送る手紙なんて、一行あれば十分だ。  ――さようなら。どうか、お幸せに。  未練を断ち切る決別の手紙は自らの懐に。  そして、たった一行の文章を彼宛にメールで送った。
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