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随分前から彼について悩んでいた。祖父は決して立ち入ってこないけれど傍にいて心配しているのは伝わってくる。別れを告げると決めた前日、祖父に
「ねえ、祖父、明日お昼ちょっと出てきてええ?」
と聞くと
「ん?ええよ、幹ちゃんはちーと働きすぎじゃ、働き方改革で休ませようと思っとたんよ」
と冗談を言ってから僕の顔をじっと見て
「一日ゆっくり休みんさい」と穏やかな笑みを見せてくれる。
それだけで鼻の奥がツンとする。
「じゃ、用事が終わったら、僕お客さんでお店行ってもええ?」
何とか紛らしたつもりが涙がつーっと流れてしまった。
祖父は何も言わずに背中を撫でてくれた。
「祖父、僕は彼氏に求めすぎなんじゃろうか?恋人じゃったら他の人とそういうのしてほしくないんよ、おかしいんかな?」
「おかしゅうないよ、当たり前じゃろ」
祖父の優しい声が、俯いている僕の耳に聞こえてくる。
「でも、これまでの相手もみんな体は別で割り切ったらええんじゃないん?って言うんよ、この世界ではこれが当たり前なんじゃって」
思わず顔をあげて祖父の顔を見る。
「でも、僕は嫌なん。この世界の話じゃなくて僕ら二人の話なんじゃないんかって、僕が嫌っていいよるんじゃけ、やめて欲しいん」
「そりゃあそうじゃ、幹ちゃんの言いよる事正しいで」
「やめるって言ってくれたのに、また他の人と会っとたのが分かった」
分りたい事はちっとも分からないくせに、分かりたくない事はどこからか耳に入ってくる。
「もう、無理なんよねきっと、この世界のルールが分からん僕は彼とはいつまでも平行線じゃ、お互い苦しいばっかりでダメじゃね、明日お別れ言うてくる」
また俯いてしまった僕を励ますように
「お店におるからね、幹ちゃんの貸し切りじゃ、いつでも来んさい」
僕の背中をポンポンとしてくれた
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