逃亡する花子さん

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かすかに頷いて立ち去りかけてから、小松さんはふと振り返った。 じっと、私を見ている。 「……何か?」 「秘密の花園さん?」 はあ? 意味が分からなくて、私はポカンと彼を見返した。 秘密(シークレット)花園(ガーデン)なら、イギリスの文学作品のタイトルだし、私の苗字は花園だけど、なぜその二つをくっつける? 「あ、間違えた。 花園さんの秘密って」 いつもはぼそっと単語しか喋らないのに、今は珍しく会話になっている。 でも、内容は意味不明。 しかも、変なところで言葉をとぎらせるから、続きが気になる。 「あの、小松さん?」 私が少し強めに声を出すと、雪村さんが振り向いた。 「どうかしたんですかぁ?」 「小松さんが、私に何か言いかけてて」 と言いながら、もう一度振り返った時には、そこには誰もいなかった。 え?放置ですか? 中途半端なままなので、気になる。 私の秘密って、何だ? 「小松さんってぇ、ちょっと不思議系ですよね。 もっと俺様なのかと思ったら、親切だし。 でも、あんなに色気たっぷりなのに、全然グイグイ来ないんですよぉ」 「……真昼間からグイグイ来たら嫌でしょうよ」 雪村さんの発想は、どこまでも恋愛体質だ。 私はため息をついてから、午後の仕事に頭を切り替えた。
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