――予期せぬ誘い――

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 俺が暮らす町では、毎年七月の最終土曜日になると、盛大な夏祭りが行われる。  歩行者天国のように大通りを占領し、夕方六時から夜の十時まで、多くの露店が道の両端に並び、祭りに集まる人たちの足を止めさせる。  八時を過ぎると、大通りから三百メートル程離れた場所にある広場から数百発の花火の打ち上げも始まり、大抵それに合わせてカップルや家族連れは広場の方へと流れていくのが通例だ。  現在時刻は夕方の五時四十分。  祭りの舞台となる大通り、そのすぐ横に隣接する自然公園のベンチに腰掛け、額に滲み出てくる汗を拭いながら、俺はぼんやりと祭りの準備が整いかけた大通りを眺めていた。  法被(はっぴ)姿で威勢のいい声を張り上げながら笑う中年の男、浴衣姿でソワソワと歩き回る女性グループ、そんな女性グループを意識してチラチラと視線を向けながらガードレールに座る男。  中高生くらいの子供たちや、小さい子の手を引きながら談笑をして歩く家族の姿も多い。
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