その夜

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その夜

僕のひいお祖母ちゃん、ソノさんって言うんだけど…通夜の日の事を話したいんだ。 僕は山本圭、大学二年生だ。兄弟は高校二年の弟の修がいる。父、母と四人暮らしだ。車で一時間くらいの所に父の実家はありソノさんは娘であるおばあちゃんと入婿のおじいちゃんと3人でそこに住んでいた。 ソノさんは最近は体調を崩していて最期は病院で亡くなったんだけど。 死因は肺炎。 百になってたから大往生だ。 知ってた?百歳を過ぎると総理大臣からお祝いがもらえるんだよ。 家に届いたそれは賞状と金杯、額に入った陶器の飾りだった。賞状には長く生きてきて素晴らしい、みたいな事が延々と書かれていてよく覚えていないけど最後に総理大臣の名前が入っていてへえーって思ったもんだ。 話がそれちゃったね。 いつかは来ることと皆うっすら感じていたからとうとうこの日が来たか、って誰もがそう思っていた。 だからかな、僕たちが実家に入るとお疲れ様でしたみたいな空気が漂っていた。  病院から家に一度戻って来たソノさんを葬儀社の方が死装束にお着替えさせて整えようとしていた時に事件は起きたんだ。 「ハックション!!」と盛大なくしゃみをして部下の彼は少し持ち上げたソノさんの足を落としそうになった。 しかしそこはプロ。 ガクッ!!持ちこたえ事なきを得た らしい、が 「う、う、う」と絞りだすような唸り声がソノさんの口から出てきて 「ひいっ!」 「あわわわ…」彼は腰が抜けたまま後ずさりした。 もちろんソノさんの足は今度こそほっぽりだされた。 まあお布団はふかふかだし支障はなかったけど。 「あわわわ…」と言いながら離れて固まってる彼。背中を向けて次の支度をしていた上司はびっくりして振り返り 「お前何やってるんだ!」 「す、すみません!…でも仏様が」 「え」 「ううう…」布団の上で手がもぞもぞ動いてる! 「ぎぃやあぁあー!」二人は悲鳴を上げた。 少しお待ちください、用意ができましたらお呼びしますと言われたので親類一同隣の部屋で待機していた。 隣りからの叫び声に 「何だ何だ?」と全員飲んでたお茶もほっぽって見に行くと 腰を抜かした葬儀社の若い人と固まってる上司らしき人と「ううう…」と丸くなってうめいているソノさんがいた。 「うわ」最初に声を出したのは弟の修だ。 「マジで?」不謹慎な一言だけど・・・僕もそう思った。 「…生き返ったのか?」父はそう言うと一番に駆け寄って 「おばあちゃん!」とソノさんの身体を抱き起こした。 「俺が分かるか?」 叔母も叔父もおばあちゃんも二人を囲んで 「おばあちゃん!」「お母さん!」と口々に話しかける。 「…うう」 「なに?」 「お母さん!」おばあちゃんの声に 「眠い…」そう言うと薄目を開けたおばあちゃんはガクッと首を垂れて…寝てしまった…。
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