驚き

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驚き

「うーんと」孫でもあり長男でもある父はこの場をまとめようと口を開いた。今の時点では彼がこの場の代表だ。入婿のおじいちゃんは少し認知が入っていてぼんやりしてるから取り仕切るのは難しい。 「とりあえず」しばし沈黙の後。 「おばあちゃんは生き返ったのか?」父は誰も答えられないが言わずにはいられない一言を発した。 父は葬儀社の人に向き合い 「こういう場合はいつもはどうされてますか?」 いや、こんな事は初めてですと二人の顔に書いてあるし、部下は放心状態で聞こえてないのかぼんやりしたままだ。 「とりあえず」ハンカチで上司は顔を拭った。 「上と相談致しまして明日ご連絡させていただきます」上司がハンカチで顔を押さえたまましどろもどろで答えるとまだ腰の怪しい部下を引っ張って立たせて、ではと逃げるように退散していった。 上司は帰りの車の中に部下を押し込むと急いで車を発進させた。 しばらく走ってから上司は 「もう大丈夫だから」と部下に声を掛けた。 「おおおお・・・驚きましたああああ」ガタガタ震えて丸くなっていた部下が左肘にすがりついてきた。 「あぶない!落ち着け!」あやうくハンドルを取られそうになって大声を出すと彼はびくっと動きを止めてまた助手席に丸くなってしまった。 「すまん、驚かした」 「いえ・・・」 「こんな事は初めてだ」ガタガタと震えの止まらない部下を見ながら上司は独り言を呟いた。 俺だって・・・部下の手前もあるしお客様の手前もあるから平静を保っていただけなんだよ。 「俺はお前が羨ましいよ」ため息をつきながらまた呟いた。 上になんて報告したらいいんだ・・・。 いや、生き返ったならそれはめでたい事だよなあ、と彼は呟いた。   部屋に残されたのは白い布の掛かった台とその台の前の布団の中ですうすう眠るおばあちゃんだ。父が布団に入れてあげてから丸くなったそのままの形で眠っている。 「うーんと」 なんともいいがたい顔の父がこっちを向いた。多分皆同じように埴輪のようなびっくり顔をしていたと思う。少なくとも僕はそうだ。 「こういう場合はなんて言ったらいいのかなあ」と父。 「生き返っておめでとう!って言う?」と修がのんびりと口を開いた。 「そもそも本当に死んでたのかな?」誰かがポツりと呟いた。 そうだよね、医師が間違えたんじゃない? やっぱりあそこはヤブなんだよ! 皆が堰を切ったように話し出したのものだからものすごい騒ぎになったが暫くすると話し疲れてまた静かになった。 「でもさ、息・・・してなかったよね?」長女である叔母のカスミが恐る恐る切り出した。 看護婦と呼ばれた時代から看護師をしているベテランである彼女の一言に誰も何も言えなかった。  すうすう眠るおばあちゃんを起こすわけにもいかず僕達は途方にくれた。
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