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色川浅葱
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“間もなく1番線を特急が通過いたします。白線の内側に下がってお待ちください”
いつもの駅のいつものホーム。
いつものアナウンスが流れている。
長い列に並んだ乗客たちは、特急通過をやり過ごして次にくる各駅停車に乗るつもりだ。
色川浅葱はホームの端に立っていた。
それは、いつものこと。
いつもの時間で、
いつもの場所にいる。
それなのにどうしてだろう。いつもと違う朝の気がする。
耳鳴りがする。
グワングワンと頭痛もする。
視界が霞んで、何も考えられなくなる。
この後は会社に行かなければならない。
高校を卒業して5年目。中堅デザイン会社でデザイナーとして働いている。
やってもやっても終わりのない仕事。
浅葱の場合は、それに加えて電話対応・受付対応・苦情処理、掃除などの雑用を押し付けられていて毎日忙しい。
昨夜も深夜残業で、家に帰ったのは0時を過ぎていて、5時間後にはこうして出社しようとしている。
特急が警笛を鳴らした。
“プワーーーーアン……”
耳をつんざく大音量。
迫りくる特急車両。
浅葱の体がグラリとバランスを崩して、頭から線路に落下した。
浅葱は、(私、何しているんだろう)と後悔したがすでに間に合わない。
初めて、今までの生き方を後悔した。
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