06.ダンディのメロディ

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「……違います」 「俺とあの子は、拉致られる前にステーキを食べていたんです。 想ったんですよ。腹の中にはステーキがまだあるって」 「では、消化前の肉を取り出す為に腹を裂いたのかね?」 「それも違います」 正確には、最初想いついたのはそれだった。ナイフもあるし。 でも、彼女は良く噛んでいた。 残っていても、原型は留めていないだろう。 あまりに美味い肉で、俺はロクに噛まずに呑み込んでいたんだ。 まさか、この局面で、無駄な特技が活きるとは想わなかった。 俺は、蟻の一件があってから、食ったものをそのまま吐き出す『人間ポンプ』を習得していた。 ダンディは大笑いし、拳銃を下げた。 「天国と地獄の料理だな。ある意味、一瞬で人生観が変わったよ」 ダンディはスープを飲まず、ステーキだけ食べた。 余程楽しかったのか、鼻歌まじりだ。 「その歌、流行ってるんですか?」 「まさか、これは、私のオリジナルだよ」 「嘘だぁ、だって、彼女も歌ってましたよ、そのメロディ」 俺は愛人の死体を指差した。 ダンディの鉄筋箸が止まった。
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