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「……違います」
「俺とあの子は、拉致られる前にステーキを食べていたんです。
想ったんですよ。腹の中にはステーキがまだあるって」
「では、消化前の肉を取り出す為に腹を裂いたのかね?」
「それも違います」
正確には、最初想いついたのはそれだった。ナイフもあるし。
でも、彼女は良く噛んでいた。
残っていても、原型は留めていないだろう。
あまりに美味い肉で、俺はロクに噛まずに呑み込んでいたんだ。
まさか、この局面で、無駄な特技が活きるとは想わなかった。
俺は、蟻の一件があってから、食ったものをそのまま吐き出す『人間ポンプ』を習得していた。
ダンディは大笑いし、拳銃を下げた。
「天国と地獄の料理だな。ある意味、一瞬で人生観が変わったよ」
ダンディはスープを飲まず、ステーキだけ食べた。
余程楽しかったのか、鼻歌まじりだ。
「その歌、流行ってるんですか?」
「まさか、これは、私のオリジナルだよ」
「嘘だぁ、だって、彼女も歌ってましたよ、そのメロディ」
俺は愛人の死体を指差した。
ダンディの鉄筋箸が止まった。
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