プロローグ

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彼女があまりにも天真爛漫にプライバシーをまき散らすものだから、私は周りをきょろきょろしながら人差し指を立てる。 警戒心のなさも若さゆえなのだろうか。そうじゃなくても、彼女は可愛らしい顔をしている。フワフワした感じで天然ぽくて若くて可愛ければ、周りにいる独身男性の目をさぞかし引いているだろうに。 それに、このマンションはオートロックではないから、ちょっと心配になってくる。 「へーっ! 奇遇! 私も6階」 「っ!」   突然背後から肩を叩かれ、心臓が縮む心地がした。同時に叩かれたらしい隣の彼女も「きゃっ」なんて高い声を上げて、一緒に振り返る。   そこには背が高くて格好いい人が立っていた。……女だけれど。 「はい、握手握手。なかなかないからね、こういう機会」   口角を思いきりあげ、私と605の手を握ってブンブンと上下させる彼女は、ショートのストレートヘア。一見モデルか宝塚の男役みたいな女性だ。 「にしても、ホント迷惑、ボヤ騒ぎ。あ、ほら、なんか言ってる」   消防の人が、中に戻って大丈夫です、とみんなに案内しているのがわかった。ブツブツ言いながらそれぞれの部屋に戻っていく住人たち。エレベーターを待ちきれずに、階段をのぼっていく人たちも多い。   消防の人と長々と話しこんでいる人もいる。もしかしたら出火原因の帳本人、もしくはこのマンションの管理人なのかもしれない。 「ねぇ、キミさ、何歳? 名前なんて言うの?」 「私ですか? 野瀬川 穂乃(のせがわ ほの)、20歳、5月生まれの大学2年生です」   ぎょっとした。またもやベラベラと自分のことを話す605にもだけれど、軽いナンパみたいに聞く宝塚にも。 「あー、やっぱり大学生か。穂乃って名前、可愛いね」 「ふふ。ありがとうございます。嬉しいです。お姉さんは?」 「私はねー、稜(りょう)。26」 「稜さん! なんかすごく合ってます。名前もカッコいいんですね」
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