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頬を薄く染めたまま、ふふっ、と屈託もなく笑ったその顔が、俺の心臓を絞るように握った。
伴った痛みを紛らわすように顔を少し傾けて近付けると、ひゅっと息を吸い込んだような表情をした塔子は、次の瞬間ぎゅっと目を瞑る。
俺の脳裏で、わりと新しい記憶の中の彼女がまた、『頑張ります』と言った。
「…………」
やめた。
そう思って、力いっぱい目を瞑っている塔子の鼻をつまむ。
「泡、ついてた」
「えっ!?」
瞬時にさっきの2倍の顔の赤さになって、体を離す塔子。
俺は「変な顔」と言って笑った。
塔子が「最初から教えてくださいよ」と睨んだので、「お互い様」と言って頭を小突く。
エレファントノーズフィッシュが吐いた息だろうか、水槽の方から小さくパチンと空気が弾けるような音がした。
伊崎さんがおばけの話題を出したこともあって、塔子は「泊まってください」と言った。
一旦自分の部屋でシャワーを浴びて寝る支度をし、塔子の部屋にまた戻る。
土曜日はだいたい泊まっているけれど、平日は初めてではないだろうか。
でも、すぐ上の階が自宅だという安心感があるから、あまり気にはならなかった。
「こちらが頼んでるのに、ソファーで寝させるのはやっぱり気が引けます」
そろそろ寝ようかという時間になり、リモコンで常夜灯にして「おやすみ」と言いかけると、パジャマ姿の塔子が寝室の入口に立って訴えてきた。
「いつもここだし、これソファーベッドだから全然大丈夫だって。下手すりゃ自分のベッドより寝心地いいよ」
「いえ……その……じゃあ、たまには交代とか……」
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