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始まりの電話
「ほおぉお…
ダブルデート、ですかあ…」
さっきまで読んでいた『人間失格』を脚に挟んで柔軟体操をしながら、私は浮かない返事をした。
「お願い!
カレに、どうしてもって頼まれちゃって」
「…うーん。
…ホカを当たってみては?
私、ちょっとその日は別件が…」
「そう言わずにさ~。
アンタが暇にしてんのは分かってんの!
ね、ね、カレが言うにはさ。
凄いイケメンらしいよ?
会社もたしか一流のトコだった…ような気がするし…
ねっ、もう征子以外掴まらないの!
お願いっ、この通り!」
「うーん、凄いイケメンねえ…
どうも、うさんくさいなあ。…わっ、行きますよ、行きますって!ユイ先輩泣かないでっ」
「アラいいの、ありがと。じゃあ、場所はね」
泣き声を止め、ケロっとして集合場所を告げた彼女。
くそ、調子いいんだから。
彼女に聞こえないよう舌打ちをし、いかにも興味ありげにそれを訊ねた。
「で、その方のお名前は?」
「あ、うん。
エ~ッとね、確か…『ダテキョウシロウ』さんだったっけ?なんかそんな感じ」
「げぇ、ホントにぃ~?
なんか、時代劇みたいだけど」
「まあ、とにかくありがとね。
助かった。
じゃあ、今週末。3時集合ってことでヨロシク
…逃げんなよ」
私の気が変わらないうちにと、彼女は早々に電話を切った。
「…はあ」
溜め息が、自然に漏れた。
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