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──Side 航希
──あんなこと言うつもりはなかったんだけどな。
あの態度にちょっとムカついたから、苛めてやりたくなったのだ。
そもそも金曜日に誘ったのだって、あいつをその気にさせて、「仕事のできる隙のない美人」のメッキを剥がしてやろうと思ったから。理由なんて、それ以上でも以下でもない。
ちょっと愚痴を聞いてやって、どうホテルに連れ込もうか考えているところに──あんな無邪気な笑顔を見せられたら、抱きたくて仕方がなくなった。だから、こうなったのは香坂のせいだ。
同期として入社したとき、周りの男どもがざわついていたのはよく覚えている。
俺の香坂への第一印象は「スカした美人」で、身持ち固そうだし性格キツそうだし、遊び相手にはならねえな──と、俺のセフレ対象からは早々に外れた。
実際、同期の男連中の中であいつに女としての興味を持たなかったのは俺と古賀くらいだ。他の奴は突進しては玉砕して、結局、あいつと恋仲になった男は一人もいなかった。
──それが、何年も経ってからこんなことになるとは。
いや、別に恋仲になったわけではないが──この会社で、香坂とこういう関係になったのは俺くらいではないだろうか。そう思うと、ちょっとした優越感を覚えてしまう。
あのときの香坂は──正直、かなり可愛かった。
誰があいつのあんな姿を想像するだろう。いつもは低めの声でハキハキ喋るくせに、あんなに舌足らずで甲高い声を上げて。綺麗な顔を歪めながら、柔らかく豊かな胸を揺らして乱れて。
──本当に最高だった。多分、俺たちは身体の相性がいいんだろう。
一回きりじゃ勿体ない。またあいつの、あんな姿を見たい。
そう思ったら、あんなことを口走っていた。さっきの、いつもの香坂からは想像できないような泣きそうな顔も──金曜日の夜を思い出して、ぞくぞくしたのだ。
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