あの日彼女に出会った

1/7
122人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

あの日彼女に出会った

 ある日突然、人々が前世の記憶を語り始める。  それは先週の日曜日から、日本国内のあちこちで始まった奇妙な現象だった。初めはSNSで話題になり、ついにはワイドショーでも取り上げられるようになった。そして昨日、妻を殺した男がその動機として、「前世での復讐を果たしただけ」と語ったという事件が大々的に報じられた。 「でもさ、結局のところ、その人たちが本当に誰かの生まれ変わりだってことも、本当に前世の記憶があるかどうかなんてことも、誰にも断定できないわけでしょ? なんか胡散臭い話だよね」  どのチャンネルに変えても妻殺しの事件の話ばかりで、うんざりした私はテレビを消してリモコンをベッドに放り投げた。  彼氏のゴンちゃんは、狭いキッチンでラーメンを作ってくれている。テレビを見ながらベッドに寝転んでそれを待つのが、私の休日のお昼の過ごし方だ。 「それに前世で因縁のあった人物が、実は自分の妻でしたなんて、出来すぎでしょ。単に奥さんにガミガミ言われてウンザリした男が、殺しちゃった言い訳に今流行(はやり)の“前世記憶”を利用しただけだよね、きっと。でも、どうなんだろ。『前世の復讐でした』って言ったら、情状酌量されるのかな? だとしたら、みんなそう言うよね。『親の敵を討ったんです』って涙ながらに訴えたりしてさ」 「今、自分の身の周りにいる人たちは、前世で何らかの関わりがあった人たちらしいよ。人と人との縁はそう簡単には切れないってことなのかもね」  液体スープの素を入れた丼の中に、ゴンちゃんはヤカンのお湯を注いだ。私が作る時はきっちり計量カップで測って入れるんだけれど、目分量(めぶんりょう)で入れるゴンちゃんの作るスープの濃さの方がピタリと嵌るのはどうしてだろう。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!