抗えない想いを胸に秘めたまま、おまえの傍にずっといたい

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 信じられないことを口にした黒ずくめの男のセリフに、ベニーの顔が嫌そうに歪んだ。 「そんなことを言われなくても、彼とはうまくやっていく予定です。お目付け役がしっかりしていますから」 「確かに。前のヤツに比べて、安心して任せることができる」 「すみませんが失礼いたします。先輩、帰りますよ」  俺に声をかけながら腰を屈め、やんわりと抱っこする。難しそうな表情でいるベニーの手から肩に乗り、鋭く瞳を光らせた。黒ずくめの男に、平然と背中を向けて歩くからだった。 (背後から襲われると思わないのかよ。ベニーの奴、本当に不用心だな……)  耳をそばだてながらコチラを見つめる視線を受け続けたら、黒ずくめの男は笑ったまま、黒手袋をつけた右手をピストルの形にすると、狙いを定めるように人差し指を突きつける。  俺を狙っているのか、あるいはベニーの頭を狙っているのかはわからなかったが、そのことを知らせようとした矢先に、狙いが思いっきり変わった。 「にゃっ!」  黒ずくめの男はこめかみに人差し指を当てて、にんまりと微笑む。ゾクッとするような笑みに身体を震わせたら、指先から眩い火花が小さな音を立てて発射された。紅蓮色の火の粉を纏った躰が、頭から暗闇に吸い込まれるように消えていく。 「先輩、どうしましたか?」  派手な火花を散らせたというのに、とても小さな音だったため、ベニーは気がつかなかったらしい。俺の視線の先を見て首を傾げる。 (この先、俺がコイツをしっかり守らないと、間違いなく寝床を失うことにつながる。だからこそ、ちゃんと守ってやらなくちゃな!) 「んにゃっ! にゃにゃにゃん」 「あー、はいはい。先輩がなにかに張りきってるのはわかりますが、くれぐれも無理しないでくださいね。私の躰はひとつなんですから」  白い目で俺を見たベニーは、信じられない言葉を吐き捨てた。この俺が小さな身体を張って守ってやるっていうのに、文句しか言わないなんて! 「先輩には、長生きしてもらわなきゃならないんです。幸せになる私の姿を、最期まで見届けるためにね」  その言葉で、内なる怒りがスーッとなくなってしまった。 (ベニーが幸せになる姿――その傍に、俺がいてもいいんだ……) 「そのために先輩には、無茶をしてほしくないのです。お願いしますよ」 「にゃあ……」  大好きなおまえの傍にいるために、黙って大人しくしていれば、長く居続けることは可能だろう。だが俺はそれを望まない。  顔の真横にある綺麗なベニーの顔を、そっと眺めた。 「にゃぁにゃ、にゃにゃん!」  内なる気持ちを込めて話しかけた俺に、ベニーは目を見開いて凝視する。月明かりがベニーの綺麗な髪を照らして、キラキラ瞬いていた。見惚れてしまう相手は人間なのに、胸の奥がじんと疼く。 「先輩……」 「にゃ、にゃんにゃぁ…にゃんにゃ」 「ありがとうございます。先輩のその気持ちには応えられませんが、一緒に傍にいましょう」 俺の気持ちをちゃんと汲み取ってくれたベニーに、喜んで頬擦りした。  人間よりも確実に短い俺の命。だからこそ少しでも長く一緒にいるために、全力でおまえを守ることを誓う。  そして愛するベニーが世界で一番幸せでいられるのなら、ちっぽけなこの命をかけてやろう! END
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