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警察関係者の子息。
自分たちと同じ——家柄だけの出来損ない。
「だけど自慢じゃないが女にはモテた」
煮物を突きながらてらいもなく冴木は言った。
「それで一方的に俺に熱を上げた良家の令嬢が——たくのお姉様に相談したのが事の始まりだった」
「もとい地獄の始まりじゃない?」
「そのとおり」
冴木がほぐしてくれたほっけを
僕はおそるおそる口に運んで話の続きを待った。
「天宮家の令嬢は噂に聞いてたとおりたいそうな美人で——驚いたことに友人の相談なんかそっちのけで俺に近づいてきた。まんざらじゃなかったさ。だから彼女がすでに人妻だと知りながらも、気づけば俺の方が夢中になってた。でもな——」
冴木は気だるそうに首を横に振った。
「彼女が俺に近づいたのは俺を利用するためだってすぐに分かった。『あなたにふさわしい場所を与えてあげる』と彼女は言った。そしてコネを使って俺を警察庁に送り込んだ。警察内部に自分の絶対的味方がいれば色々と好都合だって——『そしてあなたはもう私を裏切ることはできない』って彼女は言った」
「ようするに裏口入社をネタに強請られてるんだ?」
「まあそんなところ」
いとも簡単にペラペラしゃべるところを見ると。
冴木の方も我儘なお嬢様のお相手に愛想が尽きていたのかもしれない。
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