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「それじゃさ、今までにもお姉様に言われて仕事をしていたの?」
「え?」
「悪事を揉み消したりさ——例えば犯罪すれすれの事も」
僕には思い当たる節がいくつかあった。
「あるよ。君もよく知るところでは」
冴木はもう一杯ビールを煽る。
そんなに酒に強い方じゃないらしく
既に頬は赤らみ饒舌になっていた。
「田村和磨って悪党を釈放して——とんでもないことになったからもう一度逮捕して欲しいと頼まれたことがある」
「わお。じゃあ事の真相も知ってるんだ?」
「ああ。あの男は君を殺そうとして、間違えて君の親父さんを撃ち殺した」
今にして聞いても何の感慨もない間抜けた事件だ。
しかし冴木刑事にとっては違うようだった。
「誰かの飼い犬になったことは?」
「え?」
おもむろに僕の手を握り
まじまじと指先を見つめながら言った。
「誰かに価値を与えられ、手綱を握られて、それでも逃げ出せない飼い犬になったことはあるか?」
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