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10話
「んっ…擽ったい…」
何かがもぞもぞと私の胸の辺りで動いているのを感じて、薄っすらと目を開ける。
そこには、明るい茶色の髪。
「ん…何…?」
「あ、おはよう、ハニー。」
「…おはよう、ございます…っ?!」
「あれ、どうしたの?顔真っ赤にして。」
一瞬、何でロイさんがいるのか分からなくて、寝ぼけた頭で昨日の事を思い出した。
そうだ、私昨夜、彼と…
「昨夜の事、思い出しちゃった?」
「なっ…」
「ハニーは本当可愛いな。…昨夜はごめんね。僕、抑えが効かなくて、ハニーが意識飛ばすまでしちゃって。体、大丈夫?」
「あ。」
そうだった。私、意識飛ばしたんだった。
恥ずかしくて、何度も頷いてしまう。
「そっか。良かった。…ハニーとこんな風に朝を迎えられるなんて、すごく幸せだな。」
今まで見たどの笑顔よりも嬉しそうな彼に、本当にそう思ってくれているんだな、と私も嬉しくなる。
「ハニーも、幸せって思ってくれてる?」
「…はい。思ってますよ。」
「良かった。…ねえ、ハニー。これから、いっぱい2人の思い出作ってさ、もっともっと仲良しになって…そしたら、僕のお嫁さんになってね。」
愛おし気な目に見つめられながら、改めてされたプロポーズ。
本当にそんな時がくるかは分からないけど…
いつかそういう時が来ればいいな。
そう思って、頷いた。
*************
あれから半年後。
私は今、何故か教会にいた。
「あの…ロイさん?」
「ん?ハニーどうしたの?」
「どうしたのって…これは一体?」
ウェディングドレス…に見えるんだけど。
何で私はこんなものを着せられているのでしょうか?
「今から僕たちの結婚式をするんだよ。」
「…は?」
聞き間違いかな。
今、結婚式、って言った?
「簡易的な物にはなっちゃうけどね。ハニーのご両親と、うちの両親と僕たちだけの結婚式だよ。」
「…私、何も聞いてませんけど…」
「サプライズだからね。ハニーには今日まで内緒にしてたんだよ。ハニーのご両親もとっても喜んでくれてるし、うちの両親もハニーの事話したらすごく喜んでてね。もう中で待ってくれてるよ。」
「どうして、こんな急に…」
お嫁さんになって、とは言われたけど…
いつかそうなれたら、とも思ってたけど…
まだ、半年しか経ってないのに。
戸惑う事しか出来ず、目の前の彼を見上げると、優しい瞳に見つめられていた。
伸びてきた指に、頬を擽られる。
「言ったでしょ?僕には玲奈しかいないんだって。玲奈は素敵だから、横取りされたくないし、逃がしたくないんだ。僕と、今すぐ結婚しよ、玲奈。そして、僕だけのものになって?」
…本当、彼には参る。
出会った時からずっと、彼には驚かされたり困らせられてばかりだ。
いつかそういう時が来たら、とは思ってたけど、まさかこんな突然にその時がやってくるなんて。
だけど。
「…私、結婚するなら、ダメな所も全部含めて、まるごとの私を愛してくれる人がいいんです。」
あのお見合いの席で伝えた事と同じような事を言ったら、彼はすぐに気付いたのか、微笑んでいる。
「もちろん僕は、玲奈のちょっぴり怒りっぽい所も、拗ねたら可愛い所も、甘い物ですぐに機嫌が直っちゃう所も、疲れてるとメイクしたまま寝ちゃう事がある所も、休日にスッピンでダラダラしちゃう所も、優しい所も…全部愛してるよ。」
その言葉に嬉しくなって、思い切り彼に抱きついたら、力いっぱい抱きしめ返される。
「ずっと、玲奈を愛してる。」
「私も、ロイさんを愛してます。」
あの旅行で出会った時には、まさか彼が旦那さんになるなんて想像もしていなかったのに。
もしかしたらあれは運命だったのかも?なんて。
そんな乙女チックな事を考えてしまう自分に、笑ってしまう。
きっとこれからも、彼の突拍子もない行動に驚かされたり、困らせられたりするんだろうな。
そんな楽しい未来に思いを馳せながら、私は彼と誓いのキスを交わすのだった。
ーーーEND---
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