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 初めてここに連れられてきた時、口をふさがれて声を上げることすらできないどころか、開いたままの口からは涎が絶えず流れ続けた。汗や唾液、そんなものやローション、自分や先輩達の体液、おれの鮮血でひどく汚れたベッドを見た森が、小さく舌打ちをしたのを覚えている。こいつは、あの時から考えていたんだろうか。先輩の目を盗んで、いつか奴らと同じことをおれにしてやろうって。 「もっと前、一年の頃からお前のこと、いつかこうしてやりたいって。……小学校の頃なんて、なにも考えずにバカなことして遊んでた、けど、な」  あぁ、いい。いいな、おまえ、ほんと……。大きな体を前後に揺らし暑苦しい吐息の間にだらしない口から漏らすところまで、主将と同じ。同類だ。おれはこいつに売られた。部活動という狭くしみったれた世界に君臨する主将の従順なしもべである同級生の手によって、生贄として主に供された。  勝手に気持ちよくなって、うっとりしているのか、まったりと自分に酔っているのかさっきからこいつの話し方がいつもより気持ち悪くてしかたがない。自分が気持ち良ければそれでいいなんて、まるで動物だ。あぁ、そうか。だから、こいつは動物で、人間じゃないんだ。だったら、しょうがない。おれは不幸にもこの容姿のせいで自分より図体も態度もでかい動物に目を付けられてしまった。それだけだ。 『見ろよ、雪みたいに真っ白。そこにこんな色したのがついてて……、あぁ? おまえ泣いてんのか? 目うるうるさせて。たまんねぇな。やっぱこいつ、俺専用にするから。あいつらにも言っとけよ』  前にこの部屋に来た時、主将は裸にしたおれの真っ平らな胸や、涙や涎が乾いて干上がった頬をガサガサした手のひらで撫でながら、言った。俺専用。その言葉に反応したのか、その場にいた三年が薄笑いを浮かべて 『まーちゃん、それはなくない? あいつらはわかるけど、こっちには回せよ』……。  見張りとして外に出されていた森と高橋も、その頃には部屋にいた。まーちゃんという名におれがわずかにたじろいだのを、この男はたぶん見ていたんだろう。 「いいよな? 先輩とだってやってるんだしイヤじゃないんだろ」  イヤに決まってるだろ。触りたくもない汚いものを口に突っ込まれて、吐き出されて、脱がされて、汚らわしい手でやりたい放題に触られる。  主将。  正常位が好きなヤツの、見たくもない上半身に見つけたあるものを思い出す。それをかき消すように大きく首を振る。盛大に勘違いをした森が、ひたすらにやけた気持ちの悪い顔を近づけてくる。あれもこれも、もうどうでもいい。この緩慢な時間が早く終わることを望むだけだ。ただ、この男に兄さんのことで脅されるのは不愉快極まりない。この男が何を知っているのか。それだけを突き止めたい。  両手首は背後に固定され、アルファベットのOの字の形のままボールを突っ込まれた口の端から唾液は垂れ流れ続けていた。涙なんか一滴もこぼれない。それどころか、森がしてくることに肉体がどんなに反応しようともそれを上回るほどの怒りばかりがこみあげてくる。
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