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「直樹ってさぁ、隙だらけじゃないかなぁ…?」
「は?」
部屋の片付けを二人でしていた時の事で。誠也が唐突に言った言葉に顔を顰める。
…一体何の話だ?
そう思う俺に対し、
「…何て言ったらいいかな、」
俺の方を見ながら少し考え、思い付いたように。
「…まずその格好。Yシャツの胸元開けすぎ。それから流れる汗そのままで何かエロい。あとはそう…!極めつけはその火照った顔!何なの?…誘ってる?俺には襲ってくれって言ってるようにしか見えないんだけど」
つらつらと、一思いに言い切る相手。
「…ねぇよ、暑いだけだっつの。お前はアレか?ただ暑がってる奴に手ぇ出すほど頭イカれてんのか?邪な心持ってるから、んな可笑しい方向に見えるんだろ、」
本当に呆れる。
ただでさえ夏の日に。動く事すら億劫なのに、今話しかけられた事で無駄に時間ロスだ。
それでも俺の言葉に、誠也は納得していないようで。
「えぇー…? 絶対…隙だらけっぽいんだけどな…」
「それは無い」
手を動かしつつの即答。
「そう? 例えば…、」
「?」
そう言いながら、すぐ側まで近づいて。俺の腕をぐいと引っ張り、誠也の顔が近付いてきた、
のとほぼ同時に。
「ーッ!?」
思いっきり、足蹴。
言葉にならない声と共に後ろへと倒れる誠也。まとめておいた雑誌に、背中からぶつかり崩れ去る雑誌の山。
「…はぁ、」
ため息と共に、それをただ立ったままで見下ろす自分。
…また散らかった、
「…いっつ…、ちょ…何その反射神経…!?今のは展開的に直樹がキスされる流れなんじゃ…!?」
「…知るか」
さっきのダメージはどこへやら、がばりと起き上がる誠也の言葉を軽く流すが、
「はぁ…俺、"例えば…こんな風にキス出来るくらいには"って言いたかったんだけどなー…」
若干落ち込みつつ言う誠也。
…コイツ、そんな事考えてたのか?
「残念ながら容易に近寄って来た奴にキスされる隙は持ち合わせてない。」
「ー! うぅ、次こそは…」
新たに決意したようなそんな言葉を呟く相手だが、そんなのはお構い無しにとりあえず。
「ハイハイ。…どうでもいいけどお前が崩した雑誌、早く片付けろよな」
言った俺のそんな言葉に戸惑ったようにこっちを見る誠也。
「…え?俺のせい?蹴ったのは直樹じゃ、」
「……その蹴りを躱せずに"雑誌の山にぶっ飛んだ"のは誰だ?」
相手の言い分に、笑顔でさらりと返すと。
「…っ、…俺です、」
何かを言いかけるものの、自分の非を認めるようなそんな言葉。
「うん、分かってんな?じゃ作業。」
納得しただろう誠也に背を向けると、俺は自分のスペースを改めて片付け始める。
「…うぅ、素っ気ない…」
なんて後ろで呟きながらも、少し落ち込んだ様子で雑誌を片付け始める誠也。その姿は何故かしょんぼりと落ち込んでいるかのようで。
…面倒だな、ったく。…なんてため息をついた後。
俺は誠也の背中に向かって唐突に。
「…誠也、片付けとっとと終わらせられたらキスしてやってもいい」
そう告げて、作業に戻るなり数秒で
「え!?えぇぇえっ!?ほんとに…!!?」
自分の後ろから聞こえる声。
「うるさい、早くやれ」
「うん!俺頑張るから…! 約束だよ?」
嬉々とした声と共に作業スピードは格段に上がったようで。次々と片付けを進める誠也。
…単純だなコイツ。
なんて。
本当に、必死な誠也の頑張りように、思わず微笑った。
Fin.
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