トカゲの罠でしたのよ

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トカゲの罠でしたのよ

「フィエナ。馬車はどうして馬を使うの?」 「牛を使ったら牛車になっちゃうからよ、アズミル」 「フィエナ。こんな草原の真ん中の道は誰が作ったの?」 「人が通ると道は自然と出来るのよ、アズミル」 「フィエナ。帝都はなぜ帝都なの?」 「帝国の都だからよ」 「フィエナのオッパイはどうして大きいの?」 「黙りなさい、アズミル」 「ねぇフィエナなぜ……」「フィエナって……」「フィエナは……」  あぁ、うるさいわね。この子は口から産まれたのかしら?  王宮を出発してから喋りっぱなしですわ。  もう、四時間は走ったのかしら? 「アズミル。フィエナが疲れてしまうわ。まだ、先はあるのだから、あなたは少し寝なさい」 「イヤだよ。僕はフィエナと話してるんだ。お母様が寝てればいいよ」  あらあら。ミレーナも好かれてないわね。アストレアに至っては、アズミルと話してるのを今日一度も見てませんのよ。  こんなんで親子が成り立つのかしら?まるで拾った子を育ててる様ですわね。  ◇◇◇◇◇ 「王太子殿下。サリュースへ到着いたしました」  着いたようね。長かったわ……途中で宿に泊まりながらの丸三日。クリムゾアもなかなかの旅だったけど、それ以上ね。 「パルムドンからの長旅、大変お疲れ様でした。帝都内での皆様の案内人は私がさせていただきます」  部外者のパルムドンからの客とはいえ、さすがに相手が王太子だと付き添いを寄越すのね。気位の高い皇帝陛下の気遣いとは思えないし、これもカプリコ公の計らいかしらね。  ほら。やっぱり来ましたわ…… 「待ってましたぞ。アストレア王太子殿下。それに夫人。フィエナ嬢とアズミルくんも、ようこそ帝都サリュースへ」 「ようこそ帝都サリュースへ」  復唱ですわね。  ハウルスはコミュ障かしら。  しかし、トカゲ親子はいつも一緒なのね。あの息子は、ロリコンでファザコンの最強属性の可能性ありえますわね。  しかし、気持ち悪い笑顔ですわ。  私を呼ぶからには、何か企んでるに決まっていますのよ。この二人と一緒に踊れとか言われるのかしら?あぁ……イヤだわ。  ウェ……近付いてきましたわ! 「フィエナ。パーティーまでは僕の家で少しくつろぐといいよ。すぐそこだし部屋も用意してある。君の専属メイドも準備させてあるから。そこでパーティードレスに着替えなよ」 「それは助かる。良かったじゃないかフィエナ。公爵邸でバッチリ仕上げてもらえばいい。俺はカプリコ公と、パーティー前に何人か挨拶に行ってくるから。後程、パーティー会場で落ち合おう。フィエナのドレス姿を楽しみにしてるよ」  口を開けばイラつく事しか言わないわね、アストレアは。  こんな事になったのは誰のせいよ!最近、アストレアの一挙一動がイラつくのよね。  そもそも十一歳の女の子をロリコンの館に預けるなんて、頭が可笑しいのではなくて? 「アストレア。私もフィエナちゃんと一緒に行くわね」 「何を言っているミレーナ。君は王太子妃なのだから、僕と一緒にいてくれなくては困るよ」  あらあら。あそこにも、親離れ出来ない大きな子供がいますわね。あぁ、親離れじゃなくて単なる寂しがりやかしら。  浮気者は基本、寂しがりが多いですものね。  まぁ別に私はアストレアと居るくらいなら一人でも大丈夫ですわ。  ……ん? 「どうしたの?アズミル。まさかとは思うけど……」 「僕もフィエナと行くよ!」 「あぁ。そうなのね。やっぱりね」  まぁ一人よりは、アズミルでも居ないよりはいいのかしらね。屋敷が近いとはいえ、ハウルスと歩くのはイヤだったし。   「ごめんなさいね、フィエナ!アズミルの事、よろしく頼むわ」  はいはい。何だか前途多難ですわ。早くパーティーでブラントンと合流しなければ気が狂いそうだわ。  別にブラントンに会いたいわけではないのですわ。ただ、変な人達ばかりの中で唯一少しは、まともって事ですのよ。  生意気なのは今も変わらないのだから。 「…………………………。そろそろ時間かしら?」  私の専属メイドとかいうのは全然喋らないの。ただ、ずっとお人形のように立っているだけですのよ。ドレスの着替えが終わってから三十分間近く、無の時間が続いたわね。 「そうですね。後、一分と四十九秒で十八時です。そろそろお出になりますか?」 「そ、そうね。少し遅れたかしら?」 「多少遅れて入る方がカッコいいと思います」  何のポリシーなのかしら?ロリコンの館のメイドは脳ミソが足りないのね。  まぁ人混みに紛れる方が目立たないから良いわ。 「フィエナお嬢様。出ます!」  その呼び掛け、いるのかしら?あら……来たわ。 「さぁ。準備は万全かな?フィエナ。おぉ!!素晴らしい。とても美しい!どんな花よりも……いや、どんな宝石よりも美しいよ!」  ほんと、何故こんなに嬉しくないのかしら。それよりも…… 「ハウルス様?どうしてそんなに服装が乱れていますの?」 「いやぁ。アズミル君の遊び方が激しくてね。僕も、つい全力で遊んでしまったよ」 「フィエナ!このお兄ちゃん、チョロいんだよ」  何だかわからないけど、アズミルが私から離れて遊ぶのだから気が合ったのかしら?ほんと面倒だわ。  まぁ。もう少しの辛抱よ。パーティー会場に入ったらサッサとブラントンを探しましょう。 「これはハウルス様。つい先ほどカプリコ公爵閣下が会場に入られましたよ。おや?そちらの女性は?」 「パルムドン王国、第二王子アレクトス殿の御息女。フィエナ嬢だよ」 「フィエナ?パルムドンからはアストレア王太子夫妻とご子息のアズミル様の名前しか伺っていませんが?」 「問題ない。彼女は僕の婚約者なのだから」 「なんと!そうでしたか!それは、おめでとうございます!それは喜ぶ者も多いでしょう。さぁどうぞ中へ」  その場しのぎとはいえ、腕を組んで婚約者のフリをするのは色々と罪悪感が出ますわね。  と、いうのも屋敷を出てからハウルスが突然言いましたのよ!アストレア達、王太子ファミリーの分は招待権が得られたが私の分はムリだったのですって。  それならば早く言ってくれれば、こんな所来ないわよ!  で、話の続きはこうですのよ。  私が会場である城に入るには、権力の有る帝国の関係者になるしかないと。それでそれが可能なのは現状で、伯爵位以上の人のフィアンセのフリをするしかなかったのですわ。  そんな芝居うってくれる人なんてトカゲしかいないわよ。と、いうかトカゲの罠よねこれは。  別に、無理に中に入らなくても良かったのよ。  でも、ブラントンは私のドレス姿を楽しみにしてるみたいでしたし……。  一目くらい見せてあげないと、ブラントンに悪いですものね。  だから彼にだけ見せたらこんな所、こっちから出てってやりますわ! 「ハウルス殿。そちらの女性は?随分お若そうですな」 「これはマーベル卿。彼女は僕の婚約者でフィエナと申します」 「お久しぶりですハウルス様。おや?ご結婚なされたのですか?」 「五年ぶりですかアポロ伯爵。いえいえまだですよ。彼女は僕の婚約者です」  ホールは広大で、所狭しと人が居て。全然先が見えないのにハウルスは、ちょこちょこ話しかけられますわ。  さすが、公爵の息子ですわね。ただその度に私の事を婚約者だと紹介するのよ。  私も、このアウェイな場所では濁すしかないので、何とか流してますの。しかし、こんなに堂々と嘘をついて、この男は後からどうするつもりなのかしら?バカなのかしら? 「ハウルス様。事に乗じてあちこちで私を婚約者と言いふらされても困りますの。私、人を探しておりますので別行動させてもらいますわね。さぁアズミル。あなたも行きますよ」 「あぁ。すまないフィエナ。だが、くれぐれも言動には気を付けてくれよ。下手な事を言うと追い出されてしまうからね!」  これは軽い脅迫かしら。まぁ放っておきましょう。  しかし、すごい人の数だわ。この中からアストレアやミレーナ、そしてブラントンを探すのは……  あ!いましたわ! 「ブラントン……」  あら、誰かと話してますわね。  私と一つしか違わないのに、こういう場に堂々と出て話せる事が驚きですわ。さすが、昔から生意気小僧だっただけの事はありますわね。  あぁ。どうやら話が終わったのかしらね。 「ブラン……」  あー、もう!また囲まれてますわ!十二歳の王太子は人気炸裂ね。 何よ……何処かのナイスバディな女まで寄り付いてるじゃないの。  ふん……。別に私は気にしませんけど!
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