2.キューピッドを頼るしかなかった

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2.キューピッドを頼るしかなかった

マンションのコンシェルジュに依頼して、とりあえず子供に服を着せ飯を食べさせた。オーバーオールの服と、旗のついたオムライスが用意された。 ケチャップを顔のあちこちにつけながらほっぺたいっぱいにほおばる姿は可愛らしかったが、これが仮に愛する妻なのだとしたら少し寂しかった。 「おいちかった、おむらいしゅ!」 目をキラキラさせて大きな声で言う。 「そうなのぉ、おいちかったのぉ、よかったねぇ〜!」 答えてくれたのはキューピッドだ。子供好きな彼は鼻の下を伸ばしながら子供に構っている。 どうしたらいいのかわからず、もはや親友というに等しい彼をまず頼ったのだった。 「オムライスうまいもんなー」 キューピッドのパートナーも一緒に話を聞いてくれているが、2人とも子供にかかりきりだった。 「朝起きたらこの子供がベッドにいたんだ。どこの子供かわからないが、とにかくハニーに似ている気がするんだ」 言うと、キューピッドは慌てたようでもなく子供をあやしながら返した。 「ああー、ショタ病だからだよ、ショタ病。だからこの子は兄さんだよ」 聞き慣れない言葉に首を捻った。 「ショタ病っ?」 「心配しなくて大丈夫、じきに戻るよ」 「そうですよ、1週間もしたら治ると思うんで」 「ちょっと待ってくれ、話が全然読めないんだが」 俺だけが頭を抱えている。 「ああ、旦那ショタ病知らない感じ?」 キューピッドもパートナーも、さして驚いているようでもない。むしろ俺のことをおかしいと思っているように見える。 「ショタ病ってさ、アレじゃなかったっけ、黄色人種にしか出ないんじゃなかったっけ? 蒙古斑と一緒で」 パートナーがふと呟く。キューピッドは少し声を裏返した。 「ああー! そっか、そういえばそうだわ、じゃあ知らないわ旦那」 「どういうことだ?」 混乱に混乱を重ねられた感じだ。だが2人はやはり動じていない。だが、キューピッドの説明はこの混乱を一掃してくれた。 「ショタ病っていう病気みたいなもんなんだよね。俺らみたいな日本人とかアジア系のやつにしか発症しなくて、子供の頃の愛情不足が原因で、大人になってから一時的に子供に戻っちゃうんだよ」 「そんな病があるのかっ?」 「あるんですよ、でも本当に一時的なもんだし、一回起こるともう起こらないらしいですよ」 「そうそう、急に愛情過多になるとね、こうなるらしいよ。メンタルのキャパオーバーで。愛情の受け取り方が下手っていうのかなぁ。日本だとわりと一般的な症状なんだけどね」 ってことは兄さんめっちゃ旦那に愛されてるってことじゃんねー、と笑いながら子供に話しかけている。子供はとにかく無邪気に笑っていた。 「外国では一般的じゃないかもね。なんか外国でショタ病発症した人がいて、誘拐だとかって騒がれたニュースやってたもん最近」 「あ、マジー? それは知らなかったわ」 2人はあまりにも淡々としていた。 「つ、つまり、この子供は俺の妻で間違い無いということだな?」 とりあえずそこは確定させなければならない。 「そうですね」 キューピッドのパートナーが答える。 「治す手立ては?」 「とりあえずお世話することですね、治るのを待つしかないです」 「その間の生活はっ?」 「子供育てるみたいに面倒みるしかないね、これじゃ仕事もできないし」 「そんな……」 「大丈夫、日本人なら言えばみんなわかるから!」 あまりにもあっけらかんとしているから、ついて行けない俺の頭の中はますます混乱する。 「んー、まぁギャップは大きいけど、ずっとこのままじゃないから大丈夫。インフルエンザみたいなもんだから! ね! 話も聞くし兄さんの面倒も見るから。頑張ろう旦那!」 キューピッドはなんとか奮い立たせようとしてくれていたが、まだまだ事態を飲み込めない俺は、頭を抱えてしまった。 つづく
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