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「悪い。けど、金の出どころわかった方が安心して、受け取れる。ありがと、志貴!」
「たく、おまえはさあ…つけてみろよ」
「うん」
台座から外して、右耳からつけていく。最近は仕事と家事と子育てで忙しくて、ピアスやネックレスといったアクセサリーも、ちょっとおしゃれして出かける時にしかしてこなかったけど、鏡で見ると、爪は殆ど目立たない。エメラルドだけが耳たぶできらっと光る。これくらいなら、普段からつけられそう。
「どう? イイ感じ?」
「ああ。葉月はショートだから、ピアス似合うよ」
向かいの席から身を乗り出して、志貴は私の頬に手をのべて、指先でピアスに触れる。
「可愛い」
目を細めて囁かれるその言葉が、もう似合わない年なのは知ってる。だってお互いアラフォーだし、4人の子どものパパとママだし。
「志貴も、カッコイイよ」
だけど、志貴が私に言うセリフにも、私が志貴に言ったセリフにも、少しも嘘も無理もない。
「私からはプレゼントなくてごめん」
「これから貰うつもりだけど」
志貴はこれからイタズラでもする小学生みたいな表情になる。もういい加減いい年だし、会社でも人事部の次長で、結構エライ地位にいるはずなのに。
ふたりの間のテーブルが邪魔だと言わんばかりに、志貴は立ち上がって、私の方に回り込むと、背中側から私の肩を抱きしめる。
「子どもたち、寝たかな」
「さっき、プレゼント置きにいったけど、グーグー寝てた」
「じゃあ、いっか」
振り向いた私の唇を唇でなぞるように、志貴は私にキスをする。
子どもの頃の、サンタクロースを待ち焦がれたあのワクワクとドキドキ感は、サンタの正体を知ってからは無くなってしまったけれど、大人になっても、クリスマスはやっぱり特別な日――。
久しぶりに男と女に戻った私と志貴は、しっとり甘い聖夜を過ごした――。
(完)
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