308人が本棚に入れています
本棚に追加
/777ページ
「カイ…」
「ありがとう。
伊咲を励ますつもりで呼んだのに、
なんだか僕が元気付けられてしまったね」
「そんなこと…。
こちらこそ、気遣ってくれてありがとう」
「ーーーあと何日か後、幸村様が戻って来たら
幸村様や昌幸様達の判断をもって、甚八は裁かれる。
伊咲はそれにすべて任せていればいいよ。
だから今日はもう、部屋に戻ってゆっくり休みな」
「…分かった」
甚八の身体から毒が抜け切り、回復に向かっていた頃に
幸村は大坂から急ぎ足で戻ってきた。
そして、その横には新しい妻ーーー利世を伴わせていた。
品良く、垢抜けた美しさを持つ利世は、
庶民的で人懐こさが魅力のお梅とは
また違った魅力に満ちた雰囲気の女性だった。
利世は初めて会う真田十勇士たちに丁寧にお辞儀をすると、
幸村と共に、お梅の遺体が安置されている部屋へと向かった。
幸村の留守中、勝手に遺体を埋めてしまうのは忍びなく思った家臣達が
なるべく涼しい部屋に寝かせていたものの、
お梅の容姿は土気色を帯びた、かつての美しさを失った姿でそこにあった。
「…お梅…っ!」
幸村がお梅の前に正座し、肩を震わせていると、
「父上…?」
という、か細い少女の声が聞こえ
部屋の中にお菊が入ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!