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ここまで運んでくれた修理工場の人にお礼を言って、すっかり見違えたボディをそっと撫でる。
あの事故の直後は、もう僕も車も終わりだと思った。
いきなり前方から逆突なんて、避けようもなかった。
奇跡的に僕が無傷だったのは、この車が守ってくれたからに過ぎない。
真っ二つに裂けたバンパー、折れ曲がり歪んだボンネット、割れて粉々になったライト…思い出すだけで背筋が寒くなる。
車を修理に出している間、最新型のカッコいいのや 流行りのお洒落なのを代車として貸してもらったけれど。
全然 嬉しくなかった。
この車じゃないと、駄目なんだ。
運転席のドアを開けると、嗅いだことのない塗料の嫌な匂いがする。
「消臭して、芳香剤買わないとな」
そう呟きながら二週間ぶりにハンドルを握った。
ギュッと力を込めると、手に馴染んだあの感触が戻ってくる。
耳慣れた エンジンをかける心地良い音に紛れ、君が言った。
「ただいま」
end
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