9人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「えー皆さま。間もなく城羽涼介、麻倉美憂両名の婚約発表記者会見を行います」
マイクを持った進行役の男が厳かに宣言し、会場内の記者達は一斉に前方を見た。
11月大安吉日のある日。
多くのマスコミが集まった記者会見場の空気はピンと張り詰め、緊張感が漂う。
だが、そのまま時間ばかりが経過した。
スタッフがマイクの男に何やら耳打ちをしている。
「記者の皆様、大変申し訳ないのですが、城羽涼介……が現在、会場に到着していないようです……詳しい状況が分かり次第、お知らせ致します」
心許ない声が会場内に響き、記者達が一斉にどよめく。急いで部屋から出る者や携帯電話をかける者もいた。
国内屈指のアイドルスター城羽涼介が突然降って湧いた結婚話に驚愕したのは、つい、2週間前の出来事である。
事務所社長の身内にあたる女性との結婚の裏には、何らかのコネを利用したハリウッド映画の進出という目論みがあるらしい。
確かに、アイドルから脱却して役者としての実績を積みたい涼介にとっても、アメリカ映画界に進出するなんて夢の様な話である。
ただ、それで結婚相手を勝手に決められるとなると話は別。
商売道具にされた挙句、自分の恋愛一つ出来ないなんて御免だ。
相手の女というのが、今や日本では一番の売れっ子女優である麻倉美憂。
舞台や映画にも数多く出演し、多くの女優賞も受賞している。
演技力は確かで頭も良く、性格もルックスも申し分ない清純派女優……。
だが、それは表の顔。
実はとんでもない娘だという事は業界では誰もが知っている。
彼女の後ろに事務所サイドの大きな腹黒い力が働いている事は涼介自身も良く分かっていた。
その裏の嬢王「美憂」が今まさに、涼介に電話を掛けていた。
プルル、プルル……
「あれ? お客さん。電話鳴ってませんか?」
最初のコメントを投稿しよう!