第6話 復讐者は升目を塗りつぶす②

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第6話 復讐者は升目を塗りつぶす②

「頼むから、さっさと真犯人とやらを挙げてくれ。でないとここを出たら他の二人と同じように殺されちまう」  接見室のアクリル板の向こうで三人目の男――西鉄龍男はすがるように言った。 「散々悪いことをしてきたんだ。そのくらいの覚悟はしておいて当然だろう」  俺が少々、意地の悪い返しをすると、龍男は冗談じゃない、というように頭を振った。 「荒木が殺された時、俺たちは奴と和解する相談をしていたんだ。俺たちのせいで奴が再起不能になったのは事実だが、実はあの時、奴はこう言っていたんだ。「知り合いのIT社長が手掛けているベンチャーで、肉体を損傷した人間を再び戦えるようにする研究をしているんだ」と。  奴はあきらめていなかった。俺たちも闇社会から足を洗って堅気になろうとしていたし、復讐される理由なんかこれっぽっちもないんだ、なのに……」  龍男の口調は次第に泣き言交じりになっていった。俺は直感的に「こいつはやっていないな」と思った。 「その「復讐者」なんだが、本当に仲間の二人はそいつにやられたのか?」 「それは俺にもわからん。やられるところを見たわけじゃないからね。ただ、事故死する直前、切羽つまった口調で「荒木に殺される」っていう電話を寄越してきたのは事実だ」 「ふうん……ヤクで幻覚を見ていたって可能性は?確か一人は転落死で、一人はトラックの前に飛びだして撥ねられたはずだ。二人とも、いかにも幻覚っぽい死にざまじゃないか」 「俺のその可能性は考えたし、あんたのお仲間からも同じことを聞かれたよ。だが昔はともかく、死ぬ前のそいつらはヤクをやってはいなかった。なぜわかるかというと、二人とも次の仕事が決まっていたんだ。堅気になろうとする人間がヤクに手を出すはずがない」 「そうとも限らないぜ。堅気になるからといって、ヤクと手が切れるとは限らないだろう」 「それはそうだが……俺の感触では、あの喋りはヤクでラリッてる奴の喋りじゃなかった」 「ふうん……すると「復讐者」は荒木の人生を狂わせた奴らを律儀に殺して回ってるって事か」 「だったら、荒木を殺した奴を殺せばいいんだよ!生きてりゃあ、やり直せたんだからな」  恐怖がピークに達したのか突然、龍男が激昂した。 「順番なんてどうでもいいだろう。何も四人も殺さなくたって……」  どうやら龍男は次に狙われるのは自分だと思いこんでいるらしかった。俺は、背後で浮いている「被害者」を肩越しに見た。自分を再起不能にした一味の一人のはずなのに、龍男を見る「被害者」のまなざしにはいかなる感情の揺れも見られなかった。 「なあ旦那。頼むから俺が釈放される前に荒木の偽物か殺害犯、どっちか捕まえてくれよ」  龍男は泣きつかんばかりの勢いで俺に言った。俺は「努力はする」と言って接見を終えた。
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