海の見える部屋

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 翌日、父親がレンタカーを走らせて連れて行ってくれた場所が、前夜に父親が話してくれた、戦時中何人もの日本人が追い詰められて身を投げた崖だと知った。バンザイクリフだ。海に向かって祈る両親を真似て、私と姉も手を合わせた。  翌年、テレビを賑わせたニュースで、私はサイパンの夜の海に浮かんだ人たちが誰だったのかを確信した。ニュースは、終戦を知らずに三十年近くもフィリピンのルパング島に潜伏していた元・日本兵の帰還を伝えていた。彼が着用していた兵隊の帽子と服が、私が窓の外に見た人たちとそっくりだったのだ。「あの崖があるからなぁ」とつぶやいた父の言葉が、改めて蘇った。  この話を書くに当たり、私は姉に「サイパンでの夜のことを、覚えている?」と尋ねた。 「二日目の夜に、ベッドを譲ってくれたのは、最初の日にお姉ちゃんも窓の外に何かを見たからじゃないの?」とも。 「えぇー? そんなことあったっけ? 覚えていないなぁ」  とぼけた答えを返してきたが、ちゃっかりした姉のことだ。絶対そうであろうと、今でも信じている。  
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