1.重なる魂とステータス

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1.重なる魂とステータス

「ん……」  目を開けると、女神――容姿的にもそうだし事実でもある――が俺の首に間違いなくキスマークが出来るようなキスをしていた。 「………………寝てる人に何してんの?」 「ん、起こしただけ」 「キスで起こすなら口にしてくれてもいいんだけど?」 「ファーストキスがもったいない」 「さいですか。まぁ、言われてみればそうかもね」  相変わらず口調が安定しないのはお気になさらず。俺の記憶を思い出している時は男っぽく、わたしの記憶を思い出している時は女の子っぽくなる。驚いたりした時とかは体に引っ張られて女の子になるかな。 「あれ? そんな耳あったっけ……?」 「優が好きな猫耳。……どう?」  ティアは小6か中1くらいの見た目で、仄かにピンクに染まった綺麗な銀髪は、長い髪を下の方でツインテールにしている。顔は可愛い系なので猫耳が似合う。  まさか、猫耳少女になるとは思わなかったけど、正直言ってどストライク。猫目になってるのもいい。 「……変?」 「ん? あ、心は読めなくなってるのか?」 「そう。だから……」 「大丈夫、凄く似合ってるよ」 「……ん」  照れて顔を背けるティア。  尻尾が嬉しそうに揺れてていい。  ティアが着ているのは、ゴワゴワしたいつの時代だと突っ込みたくなるような服。それはわたしも同じで、すぐにでも別のものに着替えたくなる着心地。  腰には小さなポーチと一振りの剣。  抜いて見た感じは普通の鉄だと思う。  周りは森……だけど、奥の方に出口が見える。ランダムでこれはラッキーじゃないだろうか。 「……でも、お金無いんだっけ」 「少しだけ入ってる」 「え?」  どこに? と目を向ける俺に、自分のポーチから金色の硬貨を取り出すティア。こっちのポーチにも入っているのかと思って手を入れると、見た目よりも底が深くなっていることが判明。  空間拡張とかそういう系かな。 「んー……スマホ?」  ティアと同じ物が1枚。  そして、他にも板状の物が入っていた。  スマートフォンと酷似した機械のような何か。 「ん、スマートフォンのパクリ。優の世界にあるRPGはこの世界が元になってる。逆に、ゲームや別世界から取り入れたものもある。この世界は上位の神が支配しているせいでやりたい放題……」  ティアが呆れ気味にそう説明する。  つまり、よくある中世の世界でもなく、かといって現代と同じレベルの技術がある訳でもなく、滅茶苦茶な文化になっているということだ。 「このスマホもどきは何に使うんだ?」 「ステータスの確認、パーティ設定、フレンドリスト、メッセージ機能……加えて、召喚された勇者にはスキルポイントもある」 「まんまゲームメニュー……で、普通はスキル習得するのにポイントは使わない、と?」 「ん……本当は熟練度を溜めて習得するもの。年齢分の差とか、戦闘経験の無さを埋めるためにシステムが自動でポイントを付けた」 「戦闘経験……? 俺はともかく、わたしの方は戦えるんだけど……?」  平行世界と言えど、わたし……優美の世界は少し変わっている。ゲームやスポーツは普通にあるし、戦争が続いている訳でもないけど、妖や悪霊の類が実際に確認されているからそれに備えた戦闘訓練をしてた。  だから、わたしは刀を扱えるし、心構えも出来てる。 「平行世界でも日本人は日本人。多分、システムはそこまで細かく把握してなかった。……もしかしたら、優は二人分になってるかもしれない。一人分なら10ポイント」 「え?」 「優次と優美、魂は二つあるから」 「あー、えぇ……? それ、いいの?」 「ん、ミスした方が悪い」  まぁ、確かに。  危険な世界で他より生きやすくなるなら、それに越したことはない。こっちが何かした訳でもないし、あるとしてもポイント没収くらいのはず。  試しに操作してみると、 「うん、本当にあるな」 ────────────────────────  名前:優美(優次)  年齢:15歳(16歳)  種族:半妖〈Lv1〉  職業:平民〈Lv1〉  職業:無職〈Lv1〉  生命:100/100  マナ:513/513(498+10+5)  筋力:91(78+10+3)  敏捷:136(121+10+5)  器用:76(61+10+5)  精神:80(68+10+2)  耐性:98(85+10+3)  ◇スキル◇ 【取得経験値増加Ⅰ】【必要経験値減少Ⅰ】 【妖気解放Ⅰ】【生活魔法Ⅰ】【収納魔法Ⅰ】  ◇称号◇ 『異世界人』『重魂』『勇者』『初代無職』  スキルポイント:20 ──────────────────────── 「……優」 「分かってる、皆まで言うなっ」  マナの総量おかしいだろとか、職業が二つあって初代無職とか意味わからないと思うよな。スキルはまぁ、持ってても変じゃないのばっかりだけど。  でも、自分だとそれ以外でおかしいところなんて分からないし…… 「やっぱり言ってもいいよ」 「ん。職業が二つあるのは魂が二つあるせいだと思う。マナは、優美の世界にあった妖力がマナとして変換されてる。無職になってるのは、選べる職業がひとつで入れるものがなかったせい。スキルは……」  習得経験値増加は勇者全員が持っていて、収納魔法はティアからの贈り物。妖気解放は種族の固有スキルらしい。他は多分無職のせいだろう、とのこと。  ステータスについて設定すると、  生命はゲームで言うHPの役割。  パーセント表示になっていて、呪いや毒による感覚麻痺が起こっても死にかけたら分かるようになっている。  ただし、脳や心臓を破壊されたり頭と胴体が離れてしまえば即死。ゲームのような世界であって、ゲームそのものでは無いのだから。  マナは魔法やスキルを発動する為に必要なもので、無くなると目眩や吐き気の症状が表れ、慣れていないと気絶することが多い。短い期間に繰り返すと死に至る可能性もあるので注意。  総量によって肉体の老化が遅くなる。  筋力は文字通り力の強さ。  数値が高くなると筋肉の量か質が増し、体型に関しては遺伝やトレーニング方法で変わる……かもしれない。敏捷を活かし、物理法則を凌駕してダメージを与えたり防御する為に必要。  敏捷は肉体のあらゆる速さ。  足の速さ、動作の速さ、視覚などの情報把握の速さ、思考の速さなど。筋力が足りないまま全力で動いた場合、筋肉痛が起こる。  器用はあらゆることの器用さ。  肉体で行う作業が上手くなるだけでなく、マナ操作やスキルのコントロールが上手くなる。上がれば上がるほど無意識の動作にも影響していく。ただし、器用さには個人差がある。  精神は心の強さとマナの質。  恐怖を感じにくくなり、不安や絶望などのネガティブな感情からの立ち直りが早くなる(これにも個人差がある)。魔法の威力ではなくマナの質が増すので、スキルの効果や魔道具などにも影響せる。  耐性は物理的、魔法的な防御力。  毒や病気などの状態異常にかかりにくくなり、回復も早くなる。魔法のダメージは下がるが回復量が下がることはない。筋力と合わせて、見た目は変わらず防御力が上がる。  職業はステータスを加算し、特定の行動に補正がかかる。レベルアップで特定のスキルに熟練度ボーナスがあり、その職業のみでしか得られないスキルもある。  種族や勇者固有の職業も存在する。 「優のステータスは優次と優美の分。優美は元々の身体能力の高さに加えて、地道に鍛えてたから強い」 「マナもそのせい?」 「ん、多分。レベルアップでどうなるか楽しみ」  ステータスが現実にあるなんて違和感だらけだけど、きっとそのうち慣れる。  それに、ティアが俺を元の世界に帰そうとしなかったのを考えると、この世界で生き続けるものだと思った方がいい。どんな状況にも対応できる力は必要なはず。 「人に見せられない部分は隠した方がいい」 「うん、了解。……じゃ、行こうか」 「ん」  重なった名前や職業、スキルや称号……名前と年齢の片方以外は隠す方向で変更すると、ティアにパーティ申請を送って歩き出す。  すぐに視界の端に生命とマナのバーが出たので受けてくれたのだろう。……まぁ、断られても困るけどさ。  ティアが俺の隣に並ぶと、さり気なく手を握って来る。小さい手だと思ったそれが、今はそう変わらないんだということに気づいて、ちょっと笑ってしまった。  上手くやって行けるように、頑張ろう。
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