第一話 ゲーマーOL、悪役令嬢に転生

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第一話 ゲーマーOL、悪役令嬢に転生

ぱちり。 「ああ……ここは」 私が目を覚ますと、そこは 「転生」あらため「娯楽」の神様が言っていたとおり、西洋っぽい場所だった。 というか、ここがあの、ゲームの世界…… たしかに見覚えのあるベッドの天蓋、 見覚えのある内装。 だってあれは、誰かが描いた絵だったじゃない。 なんで実物が、こんなリアルな実物が存在するの? こんなものがこの世に存在するなんて、 にわかに信じられないけど…… まあ、神のすることだし(唾棄)      ☆ ☆ ☆ 私はついさっき、会社帰りの駅のホームで誰かに突き飛ばされて 電車に轢かれて死んだ。 本当に唐突に、何の前触れもなく。 いくら先の見えないブラック企業OLだからといって、 来月発売のゲームが遊べないなんて仕打ちはあんまりだ。 専用の携帯ゲーム機だって新調したし、 発売日は有給を入れてある。 ささやかな、私の楽しみがああ…… けっきょく私は線路におっこちて、でも運転席には直撃しなかったから、 きっと運転手さんのトラウマにはならずに済んだかも。 それだけが救い……なのかな? これで私が死ねなかったとしても、 電車に轢かれちゃったら五体満足なわけないから、 こっちの方が運が良かった! そう、ちゃんと死んで良かった! それに…… どうせ、生きてても大して面白いこともなかったし…… ゲームやる以外は。 ところで天国にもゲームってあるのかな?      ☆ ☆ ☆ 甲高い電車のブレーキ音が耳に残ったまま、 私はいきなり違う場所に飛ばされた。 飛ばされた、という表現は適切なのかわからないけど、 フワフワと宙に浮いてるので、 まあ、飛んでいるのかなと。 すると、どこからか男の人の声が聞こえてきた。 私の名前をよんでる。 ――なんてイケボなの?? 声優さん? どこ?どこ?どこ?どこ? 私がキョロキョロしていると、 「姿が見えた方が安心するか? 少し待ちなさい」 とイケボが。 ワクワクしながら待っていると、 ほわ~んと男の人が現れた。西洋人だった。 ギリシャ彫刻みたいな格好してるので、 「ギリシャの方ですか?」 と、なんだか間の抜けた質問をすると、 「ギリシャの神かな」 と、イケボの彼は答えた。 ――神? このひと神様? 「そうだよ。神やってます。全能神とかじゃないけど。 神たくさんいるし、その中のごらk……いや、転生担当で」 「い、いま何か言いかけましたよね? 娯楽? の神……さま?」 「細かいことはいいんだよ。えーっと、貴女はさっき死にました」 「はい、やっぱそうなんですね。で、ここは天国ですか?」 「天国などというものはない。死人は全て冥界に行く。 ――若干の例外を除いて」 「あの-、ここがどこか説明になってないんですけど」 「私にツッコミを入れるニンゲンちゃんは久しぶりだな、 ここはだな、人間界でも天界でも冥界でもなく、 ただの異空間だ。予備スペースみたいな?」 「よ、予備ですか……、それで私はどうなっちゃうんです?」 「君はだな、君らに分かりやすく言うと、 中世ヨーロッパ風の世界に行ってもらうことになる」 「やです。文明レベル低そうじゃないですか。 水洗トイレもなさそうだし、もうちょっとマシなとこにしてくださいよ」 「ええ~……」 イケメンイケボイスのギリシャ風の神様は、 しょんぼりと肩を落とした。 「落ち込んだふりしたってダメですよ」 とはいえ、神相手に選択肢があると一瞬でも思えた自分が愚かしい。 そんなワケなかろうに。だって私はもう死人…… 「気に入ると思ったんだけどなあ、だってさ 君のカバンに入ってた携帯用ゲーム機で さんざん君がプレイしてたゲーム世界を模したんだよ。 死んでもゲームしたいって言ってたじゃん。 だからご希望に添ったんだがねえ……」 ――え? 「見ればプレイ時間はとうに50時間を越えてるじゃないか。 このゲーム好きなんでしょ?」 「それは……その、難易度が高いのでプレイ時間がかさんで」 「高い難易度でも、それだけの時間を費やそうと思ったんだから、 やっぱ好きなんじゃないの?」 「ま、まあ……」 「だったらいいじゃない。きっと気に入ると思うから」 「っていうか、なんでゲーム世界に私が行くんですか? ちょっと意味わかんないんですけど」 「それはねえ――僕がラクだからさ」 転生あらため娯楽の神様の言うには、 この世は全て神様たちの娯楽のためにあるんだって。 神々は大昔から、死んだ人を生き返らせては、 違う世界に放り込み、様子を見て楽しんでいたと。 まったくもって悪趣味な話だけど、 永遠に生きる神様は、そのぐらい刺激的な娯楽じゃないと、 楽しめないらしい。 それで、さんざん死人を異世界送りにしていたら、 とうとう送り込む世界のバリエーションが 足りなくなって他の神様たちから苦情が出た。 で、この神様が困っていたところ、 最近になってニンゲンちゃんが コンピューターゲームというものを発明し、 それを見た彼がこれ幸いとばかり、 世界の丸パクが捗った、という話のようだ。 ……ナニソレ? 「で、私はこのゲームの世界で何をすれば? まさかモブ?」 神様はニヤリと笑った。 「そりゃあ、面白くなるようにするに決まってるでしょ モブなんかにするわけないよ。 大丈夫、ちゃんと流行のチート能力ってのも用意済み★ 期待してんだから、ちゃんと盛り上げてよ?」 私は背中にいやな汗をかいた。ような気がした。 まあ死んでるんで。 「で、私は……だ、だれなんですか?」 「ヒロインのライバル、悪役令嬢だよ」
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