虹色の抱擁

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 そんなことがあった一週間後。とくにちづ江の日常は変わることなく、過ぎていった。しかし、ほんの少しの変化もあるにはあった。朝起きてからまず、カーテンを開けることが日課になったのだ。  今までならば朝ごはんを済ませてから開けていたが、手順を変えると朝日の中での食事が、少しだけ美味しいような気がした。  サンキャッチャーからの虹色の光は、太陽の角度によっては、かなり部屋の奥まで届くこともあった。その光を追っていると、室内をじっくり見るようになり、あちこちに埃が溜まっていることに気づいた。「何だい、私はこんな埃まみれの部屋で過ごしていたのかい」と驚いたちづ江は掃除に精を出す。  はたきとマスクを用意し、窓もカーテンも全開にし、春が近づく風の中でパタパタと家具も置物もはたいてやった。掃除機をかけ、ガラス戸を拭き、畳に雑巾がけもした。  そうすると室内に籠もっていた嫌な空気が全部出ていった気になって、窓辺で大きく深呼吸した。  どこからか梅の香り。春は確実に近づいていて、日々はとめどなく過ぎているのだ……と気づき、ちづ江は空を見上げた。  何だか外に出たくなって、通院と買い物が目的ではない外出が増えた。  なんとなく近所を闊歩し、自然の変化を見つける。暮れゆく夕陽は昔と何ら変わりはなく、しかし変わった街並みにほんの少し哀愁を誘われる。  帰宅すれば、少し開けたカーテンの隙間から受ける陽射しで、サンキャッチャーは光を降ろしていた。  キラキラとした虹色の光がちづ江の一人暮らしの部屋を、無言にただ、照らしている。
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