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そろそろとキッチンに向かった。だんだん目が慣れてきた。
コンロの上にフライパンが置きっぱなしになっているのが見える。
私はフライパンを握りしめ、パチンと、壁の電気をつけた――。
「どろぼう」は、ソファにいた。眠っていたらしい。
男だ。まだ少年のように見える。Tシャツにパーカー、ジーンズというラフな格好をしている。
先手必勝、ためらわずに殴るべきか?
私はフライパンを、ぎゅっと握った。
「芽衣子……?」
むくりと起き上がった「どろぼう」に、かすれた声で名前を呼ばれた。
眠たいのかまぶしいのか、目をしきりにこすっている。
切れ長の、ちょっと冷たい感じのする目もと。整髪剤など何もつけてなさそうな、くせのない黒い髪。
「千歳……?」
すぐに名前が出てこなかった。
それもそのはずだ。会うのは、五、六年ぶりくらいかもしれない。
いつのまにか背がのびているし、声も低くなっている。
この子――、千歳は、私の父方のイトコなのだ。
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