生死流転《しょうじるてん》に彷徨《さまよ》う

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生死流転《しょうじるてん》に彷徨《さまよ》う

 目を凝らしてもなにも見えない暗闇の中で,汗ばんだ身体を背後からしっかりと抱きしめられた。耳元で荒い呼吸が聞こえ,身体に回された腕の毛が肌をくすぐった。  横になったまま身体をくの字に曲げ膝を抱えるようにさせられると,汗ばんだ厚い胸板が背中から離れ,下腹部が強く押しつけられた。  どれくらいの時間をそうやって過ごしたかわからないが,ようやく目が暗闇に慣れたころすぐ目の前で重なり合う男達が何組も視界に入った。誰もが息を殺し声が出ないように固く口を結んでいるか,お互いの股間に顔を埋めて声が出せない体勢でもぞもぞと床を這うようにしていた。  身体と身体がぶつかり合い,肌と肌が擦れる音だけが暗闇に響き渡った。  相手が誰なのか,年齢はいくつくらいなのか,どんな顔をしているのかすらわからない暗闇でお互いに身体を求めあい,肌を重ねることで相手の体型や体臭から年齢を想像した。  汗の臭いと中年の臭い,そして男臭い体臭が部屋の中に充満し,時々聞こえる喘ぎ声が自分のいる世界を認識させた。  背後から見ず知らずの男を受け入れていると,突然どこからともなく手が伸びてきて俺の身体を撫でた。俺は黙ってその手を受け入れ,相手が求めれば口で奉仕する。  そうやってこの空間の中では,さまざまな神経が研ぎ澄まされ快楽のみを味わって楽しんだ。こうやって夜を過ごすきっかけを与えてくれた相手はもういない。最初はただの好奇心だった。  身体を貫かれるごとに堕ちてゆく快楽と,人には知られたくない罪悪感が混在したが,この場所で,この瞬間だけはすべてを忘れ快楽のみを味わうことができた。
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