白い顔の女

2/11
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 愛結も広輝も、私を慕ってくれる大切な歳下の友人だった。妹分である愛結の話だけを聞けば、圧倒的に広輝の不甲斐なさに腹が立ったが、男女間のトラブルは当人たちにしか分からない繊細な部分もあるはずだ。機会があれば、広輝の言い分も聞きたいと思っていたところに、やはりダイビング仲間である西野君から「広輝も交えて飲みませんか?」の誘いの連絡があった。  西野君は広輝の大学の同級生。二浪していたので広輝よりは歳上だったけれど、二人は兄弟のように仲が良く、一緒にダイビングを始めたのも西野君が広輝を誘ったことがきっかけだった。  西野君にしても、愛結と広輝の二人を長年見てきたわけだから、今回のことに関しては複雑な思いがあるのだろう。もしかすると今更ながら「よりを戻したい」とか広輝が言い出したりしている可能性もあるかも、などと想像しながら、私は約束の居酒屋へと向かった。  わずか数か月会っていなかっただけで、広輝は人が変わってしまったように生気のない人相になって、驚くほど痩せた姿で、西野君に連れられて現れた。 「ちょっとあんた、ちゃんと食べているの? いっぱい注文しなよ」  そう言っても力なく笑うだけで、ホットの烏龍茶などを頼んでちびちびと口をつけている。広輝も、愛結のことで相当に悩んだのだろう。その憔悴しきった様子に、無理に別れの経緯を聞き出すようなことは出来ず、広輝が自ら話し始めるのを待つことにした。 「……俺の、子供のときの話を、聞いてもらえますか?」  西野君と、仕事の話や芸能人の話など当たり障りのない会話を交わしながら、私が二杯目の生ビールのグラスを空けたころ、広輝がぼそりと口を開いた。愛結の話ではなくて広輝の昔話を? と、少々疑問に思ったが、「もちろん」と、私は彼の話に耳を傾けた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!