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和樹と川村は校舎の中を用心深く進み、職員室にたどりついた。職員室の中は幸い何も居なかった。
「確か、このあたりにキーボックスがあって……あれ?扉が、開いてる」
壁に取り付けられたキーボックスの扉はぶらんとだらしなく開いていた。
川村の顔から血の気が失せていく。
「そんな……鍵がない」
「鍵がない?」
「もしかしたら……先生……逃げたのかも」
それは十分考えられる。ゾンビの襲撃があってから、人間の教師は見かけなかった。
「俺たち、見捨てられたのかよ!」
「もう仕方がないよ、飯田くんたちと合流して、自力で逃げるしかない……」
焦りが注意力を奪ったのか、川村は職員室の扉をなんの躊躇もなく開けてしまった。
扉が開くと、そこにはゾンビが立っていた。
「筒井……?筒井良太?」
和樹と同じクラスの良太がどす黒い顔色で額から血を流しながら、ふらりふらりと近寄ってくる。
もはや理性は感じられなかった。
「川村!逃げろ!」
良太は川村の目の前にいる。逃げろ、と叫んでももう間に合わないことはわかっていた。凄惨な場面を反射的に避けて目をつむった。
「本郷くんも逃げて!」
意外なことに、川村の声が遠ざかっていく、目をあけると良太はゆらゆらとだが、まっすぐに和樹の方へと向かってきていた。
和樹は椅子を振り上げて投げつけようとした。しかし気力のない目を空にさまよわせる良太に、どうしても投げつけることができなかった。
「ちくしょう!」
椅子を放り出した和樹は、職員室の窓から飛び降りて、集合場所の駐車場に向かった。
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