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その部屋へ入ると、扉のすぐそばに義母専属であるひとりの奥侍女が控えていた。
「さがりや」
奥侍女は義母の言葉に頭をさげ、すばやく慣れた様子で扉の向こう側へと消える。
義母ひとりのときには、そばについてあらゆる細かい世話をこなすが、別の者が同席する場合は、奥侍女は呼ばれるまで、部屋の外で待機することになっている。
言わずもがな、密談事が多いからだ。
いまは陽の高い昼間なので、風通しの良い大きなアーチ型の窓辺に、ゆったりとした大きな飾椅子を寄せ、そこに義母は深く腰をおろしていた。
実際の年齢を感じさせない素晴らしいプロポーションを誇る義母。
頭上の冠から組んでいる足の指先まで、手入れが行き届き宝石で飾り立て、相変わらずまったくの隙がない。
余裕を見せるように片手で華やかな装飾の扇を持ち、緩やかに風を送っている。
椅子の寄せられた窓から見える景色は、やや後宮が高い位置にあるせいか、眼下に広がる都はもちろん、遠く緑に揺らめく森や茶色い岩肌、銀に輝く広大な川も望めた。
窓の厚みのあるふちに、陽の光を反射して、淡い水色の液体がきらめくグラスが置かれている。
しかし、そのグラスのそばに添えられていた指先は、苛立たしげに窓のふちを小さく叩いていた。
きっと、そのグラスを床に叩きつけ、粉々にしてしまいたい気持ちがありつつも、部屋を汚すことを嫌って我慢しているだろう。
開放的で気持ちのよい部屋の中に、目には見えない企み事や嫉妬が渦巻いている。
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