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 部屋は暗く、シェードからほのかな青い光が洩れている。  ベッドが軋み、男女の裸身が青く浮かぶ。  おれは快楽の淵をさまよっていた。    <セロトニン、ドーパミン、エンドルフィンの分泌バランスは正常値です・・・脈拍心拍数は昂奮域に達しているため、このまま射精すると快楽指数は100に到達します。精液の放出時間は9秒、5CC>  だしぬけに、おれの腰のタトゥー式スマートフォンが鳴動した。  バーコードLEDがチラチラと明滅を繰り返すと、呼応するかのように女の乳房に埋め込まれたスマホタトゥーの性感アプリが起動した。 <膣圧正常値です。受胎可能域に入りました。避妊する場合は接続行為を直ちに中止してください>  低く滑らかな女性的な音声が耳の奥まで届いた。  お陰でフィニッシュまで遠くなってしまった。  おれはそれまで密着していた体を離した。恋人は黙ったままシャワー室へ消えた。  セックスさえもAIに管理される時代になったのだ。  2035年、AIチップ管理法が施行された。  全国民はAI機能を搭載したスマートフォンの埋め込みが義務化され、国家の管理下に置かれることになった。健康、栄養、趣味、恋愛、仕事、勉強、人間関係の感情の機微・・・ありとあらゆる全てのジャンルがAIによって数値化され、降順化され、人間としてあるべき姿の指標が示されるようになったのである。  それはスマホタトゥとも呼ばれた。厚さ、0.1ミリのスマホシール。  
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