1−1

1/23
104人が本棚に入れています
本棚に追加
/267ページ

1−1

万知也(まちや)、嫁が来たぞ」  同級生の台詞(せりふ)に、万知也は盛大に顔をしかめた。 「その云い方は金輪際よしてくれ。あいつはだ」  丁重に、正確に、間違いを正す。だが相手は合点がいかないらしく、 「って何だよ」 「又従姉妹だよ」 「又従姉妹って何だよ」  面倒になった。万知也は説明を放棄し、鞄を持って立ち上がる。教室の入り口の前に、美蘭乃(みらの)がいた。頬のてっぺんを変に持ち上げて、笑う。何千何万回と練習済みの作り笑顔だな、と、万知也は思った。 「一緒に帰ろ」 「帰らない」 「どうして。方向一緒でしょ」  美蘭乃は腕をからませてくる。万知也はさっさと振りほどいた。そのまま見向きもせずに廊下を歩く。美蘭乃は小走りでついてきた。
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!