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《2》苺/後編
茅乃は、祝いごとがある日には苺のショートケーキを作る。
食べる人間はふたりしかないのに、小さめとはいえホール型のケーキを作りたがる。
結婚して今日で丸二年。
今日も、茅乃は苺のショートケーキを作って俺の帰宅を待ってくれていた。
二十歳の誕生日を思い出す。
茅乃が昔住んでいたアパートに、未練たらしく部屋を借りて……あの頃の自分を思うと、羞恥が過ぎて目を覆いたくなる。
すっかり大人になったような顔をしていながら碌になりきれていない、成長したふりをすることでかろうじて自分を保てていた、余裕のない子供の成れの果て。ただ齢を重ねるだけでは茅乃の隣に立つにふさわしい男にはなれないのだと、いつもそんなことを考えては怯えていた気がする。
二十歳の誕生日の記憶は、茅乃が作ってくれたケーキよりも、茅乃と再会してから初めて肌を重ねたことのほうが鮮明に記憶に残っている。
あのときは、ケーキを食べるよりも前に茅乃を食べた。我慢できなかった。
余裕のない子供が二十歳になったからといって、すぐに大人になれるわけでもない。それどころか、たとえこの先どれほど齢を重ねていったとしても、茅乃の前で余裕を見せられるようになる日など来る気がしない。
苺のショートケーキが好きだ。
茅乃は、それよりもっと好きだ。
あなただけが、俺をこうしてしまえる。
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