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冷たい風に身を縮めながら、優衣は薄暗い自宅の玄関の鍵を開けた。古ぼけた小さな借家だ。
母子家庭であり、夜の仕事をしている母は帰りが遅い。優衣はいわゆる鍵っ子だった。
それでも3年前までは祖母が生きていて、お帰りを言ってくれた。一緒にご飯を食べて、一緒に母親の帰りを待ってくれた。優しい祖母だった。
けれど唯一、優衣の心のよりどころだった祖母も、もういない。
奥の部屋に目を向けると、二つの光がこちらを見ていた。
電気をつけると、廊下の真ん中で飼い猫のミミが眩しそうに目を細めた。帰宅したのが優衣だと分ると、興味を失ったように居間に引き返していく。
祖母が大事にしていた三毛猫だ。祖母が居なくなってずいぶん経つが、今でも祖母の気配を探している。
愛想の無い猫だと母は嫌うが、それでもご飯時や、寒い日にはたまに優衣に甘える仕草もする。優衣にとっては、可愛い存在だった。
「ミミ」と呼んでみたが、気まぐれ猫はチラリとこちらを見ただけで、あとは座布団に丸まって寝てしまった。小さく嘆息し、優衣は自室に向かった。
優衣の部屋は、生前祖母が寝起きしていた4畳半の和室だ。祖母の死と引き換えに手に入れた部屋は、ただ寂しくて切なかった。
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