落暉

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 純白の光の塊は前方の空からこぼれ、下校途中の優衣の右手の丘に消えて行った。  優衣は泣きはらした目を見開き、改めて丘の方向をじっと見つめたが、そこには黒い木々と黄ばんだ夕空があるだけで、いつもと変わりはなかった。  さっきランドセルの背中に体当たりされて転び、頭を打ったせいで、そんなものが見えたのだろう。優衣は濡れた頬を一度ぬぐい、自宅へと足を速めた。  学校で感情を堪えた分、ひとりになれる下校時は、涙があふれることが多かった。嫌な記憶もぶり返す。 「ボーっと突っ立ってんなよ」  わざとぶつかって来たくせに、優衣と同じ6年2組の墨田直樹が、言い捨てて去って行った。見ていた他の子も、笑いを含みながら見て見ぬふりだ。  イジメの発端は6年になったばかりの春のこと。ふと立ち寄った雑貨店で、クラスのリーダー格の関谷知佐と、その取り巻き数人が、棚の商品を自分のバッグに隠すのを見てしまった。その瞬間、知佐と目が合ってしまう。血の気が引く思いで優衣はその場を立ち去ったが、翌日、学校の方に万引きの目撃者と名乗る物から投書があった。もちろん優衣では無かった。   知佐らは無実を主張し、証拠も出なかったことから、嘘の投書だったとして破棄されたが、それ以来、優衣への容赦ない水面下の攻撃が始まったのだ。5年生まで学年内のイジメの標的だった子が転校し、はけ口が見つからなかった事も拍車をかけたのかもしれない。それは、まるで憂さ晴らしゲームのようにクラス全体に広がって行った。  元々内気でどのグループにも所属せず、ひとりでいる事の多い優衣の味方になってくれる友人は、この小学校にはいなかった。
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