下顎

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下顎

テレビ電話が終わると、妻はすぐに眠った。 久しぶりに家族の顔を見て興奮したのか、疲れてしまったらしい。 途中、何度か起きてはいたが、私の顔を見るとすぐに寝てしまっていた。 よほど私の顔は睡眠効果があるようだ。 そして、翌日。 昨夜から気になってはいたが、妻の呼吸が変わったのだ。 下顎呼吸(かがくこきゅう)。 これは、息を吸う時に顎を動かす呼吸である。 元旦の夜は、寝ている時間が多かった為、さほど気にはしていなかった。 ちょっと呼吸がしにくいのかな。ちょっと息苦しいのかな。 そんな風に思っていた。 が、朝起きるとそれは明らかに下顎呼吸そのものだった。 私は下顎呼吸がどういう意味なのか。 どういう症状なのか、一切知らなかった。 だから調べてみた。徹底的に。 なぜ今、妻はこんなにも苦しそうな呼吸になっているのか知りたかった。 知ったところで、どうなる訳でもない。 が、知らないままでは嫌なのだ。 少しでも妻の苦しみを知り、少しでも共有したい。 私はそう思うのだ。 結論から言うと、下顎呼吸は血圧が低下している時に見られる症状らしい。 朝、看護士さんがいつも通りに血圧や脈拍、熱などの検診に来た時、私に伝えた。 血圧が70まで落ちていると。 これがどれほど低い数値なのか、健康診断などを受けた人なら分かるだろう。 収縮期血圧、所謂、上の血圧が100以下になると低血圧と言われている。 健康な人の場合、収縮期血圧は130以下。 妻の場合、これが70になっているという。 もちろん、一時的に血圧が落ちる事もある。 が、ここまで低い数値は、私は聞いた事がなかった。 どうも胸騒ぎがする。何か心落ち着かない。 ゾワゾワするような、(えぐ)られるような、そんな感覚。 私の気のせいだと良いのだが。
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