恒例じゃない行事

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恒例じゃない行事

「お疲れなのは分かるけどさぁ、しおれたもやしみたいに横たわってても無駄に時間が過ぎるだけだよ?瑠里、ちょっと頼まれてくれな……」 「断る!こっちはね、年末から三が日も関係なく働いてクタクタなんだよ?自分はクリスマスケーキとかお餅もたらふく食べて、ちょっとお出かけしようと思ったら白髪が気になる。娘を気遣って白髪染め専門店に行って来なさいよ!」 妹が怒るのも仕方がなく、実際に私達は年末から休み返上でヘルプに入り、ようやくゴロゴロ出来たので一歩も動きたくない。 「今は正月休みなんだよね……それにちょっと入りづらいというか、一人だと心細いというかさ」 「どう見積もっても白髪染め必要世代って分かるでしょうが。恥ずかしがってる場合じゃないし、私らまだ十代だから用もないから」 電気じゅうたんの上に各自毛布を敷き、座布団を枕替わりに 横たわり温まりながらテレビを見る至福の時間を邪魔だてされたくはない。 「王子達だって、ママにはいつでも綺麗で居て貰いたいって思ってるよ?」 毛布の上で爆眠しているイナリと、あくびをしているキセロを見ると、どこからそんな通訳になるのか不思議だ。 「分かった、そんなに嫌ならちょっと譲歩するしかないか。千円払う!」 母が千円という金額を出す時は、かなり本気でお願いしているので、ため息をつきながら瑠里が身体を起こした。 「はいはい、分かりましたよ。せっかくの休みなんだから後はのんびり過ごさせてよ?」 45リットルのごみ袋用ビニールに慣れた手つきでハサミを入れ、毛染めがつかないようにケープとして準備をする瑠里。 母は頭に巻く用のラップを手に持ち、コーヒーと座布団を準備していつでもどーぞと待機していた。 瑠里が白髪染めを塗り始めると、ドラム缶こと母はプチ自慢をしたいのか、昨年を振り返りだした。 「去年は何といってもママが頑張ったよね~?プチバイトも始めだしたし、人脈っていうの?それを駆使して娘が草刈り出れなかった時も上手く立ち回った気がする」 「草刈り出れないって悪者のように言うけど、仕事だから仕方ないでしょうが!辞めていいならいつでも刈ってやるわ」 イラついたように言い返す瑠里には同感で、冷ややかな視線を送ると、特に悪びれもなくコーヒーをすするドラム缶。 確かに前年……といってもつい数か月前の事だが、毎年とは違った流れがあったのは事実だ。
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