神武貴士

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 なのに今、目の前の菫は、軽く目を閉じて、顔は心持ち上を向いてる。微笑んでいるみたいな唇は、薄暗がりの中でもピンク色にツヤツヤと輝いていた。  心臓がうるさいくらい鳴り響いている気がする。 「……神武くん?」  いつまでもマフラーが巻かれないのを不審に思った菫が目を開けた瞬間、貴士はマフラーごと彼女をぐぃと自分の方に引き寄せ、口づけた。力づくで押しつけたみたいな唇を、彼女のふっくらした唇がクッションみたいに受け止めてくれた。    驚いた菫の両手から学生カバンと紙袋が離れて、地面にストンと落ちた。  勢い余って倒れた紙袋から、お弁当の包みとピンクと白のストライプ柄のマフラーが飛び出した。
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