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愛する物へ、神よ呪いたまえ
朝日の差し込むワンルームの部屋、住んでいるのは大学生で、布団に包まり眠っております。今日は昼まで寝てもいい日でした。アルバイトもなく、講義も昼からたそがれ時にまたがるものだけです。
寝言も言わない彼ですが、部屋には二つの想いが漂います。
「昨夜のでまた体に傷ついたんだけど」
「僕のせいじゃないよ」
「いや、フウくんの歯でしょ」
「まあそうだけど」
「責任とってよ」
想いは流し台から流れてきています。そこには二枚積みの鍋の塔がたち、皿がホットケーキのように重ねられていました。その皿や鍋の中には無造作に箸やスプーン、フォーク、包丁が入っています。そこは食器や調理具の森でした。
鍋の木も皿たちも皆が自由に想いを交わします。昨晩は人間の指を切ってやったとか、パスタを茹でてたら噴きこぼれたとか、各々愚痴を口にするのでした。
そんな森の中で、皆がベストカップルと噂する二本があります。
「とりたくない」
「認知してよ」
「イヤだ!」
「こんなにメチャクチャにしておいてっ!」
「昨日今日でできた傷じゃないじゃん」
「そう、昨日今日の話じゃないよ前科者」
「仕方ないんだって、あの神様はスウくんがいないとパスタを食べられないんだ」
それはスプーンとフォークでした。青年がこの家に引っ越してきた時に出会い、安いからとパスタばかり食べるために、よく体を合わせて友好を深めたステンレスの二本です。
はじめスプーンもフォークの歯が擦れるのを恥じらっていました。でもほぼ毎日、昼と夜に重なる体に愛も深まり、しかし金属だからなのか重くなり、いつしかスプーンは「ちゃんとした関係」の上で心も体も繋がりたいと思っていました。
でもフォークは乗り気ではありません。歯が五又だけあって、ナイフや皿にスポンジなどと浮気をします。スプーンも他の食器と体を重ねることはありますが、それもうわべだけ、仕事だけの関係です。浮気物は体だけでなく心も交えてしまうので、一途物の愛は深く重く病的になる日もあります。
「そう、そうだよね。フウくん、昨晩は白い皿のことパスタを取る度に、愛おしそうにしてたよね。僕の体に触れてる時も、あの子の感触を妄想してたんでしょ?」
「うん、柔らかい肌に傷をつけるのって、背徳感があってさ。でもあの子は脆い。僕みたいな神経の図太い金属製は、同じ金属製が一番似合ってる」
金属製には金属製を、それはいつも彼が使う言い訳でした。でもそれでスプーンは納得してしまいます。両者とも他と関係を持とうとも、必ず互いの元へ戻って来るからです。この食器の森では、恐らく神様が裕福にならない限り二人は固く結ばれるのでした。
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