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第4話 その2
鼠は増える。それこそ、鼠算式に。
寝起きの悪い靖成は、言い方を変えると寝てしまえばなかなか起きないということなので、実のところそれほど天井裏にいる鼠の足音には悩んでいない。
しかしユキは、気になって仕方ないのだ。(寝不足という概念は式神にはないんだけれども)
「だからさあ、いい加減に結婚しろって。で、佐々木さんところのファミリー用マンション借りて嫁さんと仲良く住んで早く子供作れ。な?」
あからさまに結婚に向けて誘導しようとするユキに対し、靖成は冷静だ。
「ユキちゃん、論旨はずらしちゃいけないよねえ」
ちっ、とユキは舌打ちをしながら、靖成に朝食のコーヒーを出す。コーヒーだけ。
「なにこれ」
「コーヒーだよ」
「パンは?」
「ねえよ」
え?と眉間に皺を寄せ、ユキとは違って悪人面を作る靖成に、ユキは無表情で返事をする。
「食べたから。鼠が」
おおお……、とさすがに靖成も項垂れた。彼らは人がいない時を見計らい天井裏から降りてきて、そしらぬふりして食べ物を持っていくのだ。
「な?だから嫁もらえよ。賀奈枝ちゃん、すっかりさっちゃんと仲良くなったみたいじゃねえか」
さっちゃんとは、靖成の母聡子のことである。
「だからそれは、俺の母親だからって理由じゃないわけなんだよねえ」
「ならさっさとコクればいいじゃん」
平安生まれなわりには随分いまどきなことを言うな、と思いつつも靖成は口には出さない。
「大人の駆け引きがわかってないねえ、ユキちゃんは」
「俺はお前より何百年か長く存在してるぞ」
会話の矛盾はさておき。ごちそうさま、と、立ち上がって食器を下げる靖成の背中をユキは見る。
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